元世界3階級王者・八重樫東(37)が現役引退を発表した。激しく打ち合うスタイルから「激闘王」と呼ばれた名王者を、選手、関係者、歴代担当記者などが語ります。初回は、同門のWBA、IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥(27)です。

 ◇    ◇   ◇

八重樫さんとは、自分が高1の時から、2014年に世界王者になる頃まで、スパーリングをさせてもらっていました。スパーを始めた当初、八重樫さんは日本チャンピオンで、体が強く、当たり負けてしていたのを覚えています。

当時は、試合では足を使うスタイルでしたが、スパーでは今と同じでファイターでした。打ち負けることもありましたし、父(真吾トレーナー)と、八重樫さんとのスパー映像を見返して、作戦を立て、次のスパーで試すという作業を繰り返していました。高2、高3年となるにつれて、少しずつ食らいついていけるようになったことで、「指標」ではないですが、自分自身の成長を実感することができました。

僕が大橋ジムと契約したのは、八重樫さんと井岡さんの試合のタイミングでした。ロマゴンとの試合もそうですが、常に「激闘」を貫き、どんな試合でも、会場に来たお客さんは満足して帰る。そこに、プロとしてのすごさを感じました。

八重樫さんから「現役の最後にスパーをやりたい」と言われ、8月に、約7年ぶりに拳を交えました。わずか2ラウンドでしたが、八重樫さんのボクシングへの思いが伝わり、僕自身、感じたものは少なくありませんでした。トップで走ってきた先輩の最後の相手を務めることができて、自分にとってもすごく良い経験になりました。

八重樫さん、15年間の現役生活、本当にお疲れさまでした。そして、これからもよろしくお願いします!

◆井上尚弥(いのうえ・なおや)1993年(平5)4月10日、神奈川・座間市生まれ。元アマ選手の父真吾さんの影響で小学1年から競技を開始。相模原青陵高時に史上初のアマ7冠。12年7月にプロ転向。当時の国内最速6戦目で世界王座(WBC世界ライトフライ級)奪取。14年12月にWBO世界スーパーフライ級王座を獲得し、史上最速(当時)の8戦目で2階級制覇。19年5月にIBF世界バンタム級王座を奪取し、3階級制覇。家族は咲弥夫人と1男1女。165センチの右ボクサーファイター。