06年に協会幹部だった伊勢ノ海親方(元関脇藤ノ川)が、成人した稀勢の里が、巡業後の帰りのバスで痛飲した話をしていた。「かしら(若者頭)に聞いたんだが、稀勢の里が相当に飲んで、酔ってつぶれたらしい。普段の様子からは、そんな風には見えないんだけど。うれしいね、そういう力士がまだいるんだね。今は飲まない力士も増えた。稀勢の里は昔かたぎのお相撲さんだなと思ってね」。

 角界は所属部屋に限らず、力をつけてきた若手のことはみんなで見守る。特に中卒たたき上げは礼儀作法にはじまり酒の飲み方、宴席での振る舞いなど、周りが注意し、教えて一人前に育てる温かさを感じた。

 北の湖理事長も「やっぱり昭和のお相撲さんは、たたき上げで、左四つ右上手。魁皇が最後の昭和のお相撲さんだが、もし、受け継ぐなら、そういう雰囲気があるのは稀勢の里か」と言っていた。昭和の残り香が感じられる、本物の資質がある。先輩たちの思いがこもったお相撲さんだ。【03~06年大相撲担当・井上真】