大相撲の陸奥部屋で力士による暴力行為があったことが9日、分かった。ニュースサイト「デイリー新潮」が報じたもの。被害者で三段目の安西(21)は日刊スポーツの取材に応じ、元兄弟子(28)から暴力を振るわれていた事実を認めた。「相撲界だからといって、許されることではありません」と、強い覚悟を持った上で実名での告発に踏み切ったという。

安西によると、元兄弟子からの暴力や暴言は、初土俵を踏んだ20年7月場所から数場所経過した頃から始まった。「他の人より仕事を覚えるのが遅くて、鈍くさい感じが気に障ったのかもしれません」。顔を殴られたり、膝蹴りを入れられたり、フライパンの裏でたたかれたり。縄跳びのひもで数回たたかれた際には「お前はたたかれないと分からないんだから」と言われたこともあった。

一連の出来事は、師匠の陸奥親方(元大関霧島)をはじめ、部屋付きの親方衆、部屋頭で関脇の霧馬山の目が行き届かないところで行われていた。「我慢した方がいいのかな」となかなか相談はできずにいた中で、昨年12月に他の部屋で力士による暴力問題が発覚。これを受けて同親方から「暴力は絶対いけない」と注意喚起があり、限界が来ていた自分の気持ちを伝えることに背中を押した。

意を決して打ち明けたのにもかかわらず、その後の進展は予想とは異なった。部屋の中での話し合いで事が終わるように取り計らわれ、いつまで待っても事実が公にされなかった。そんな対応に疑問が湧き、告発に踏み切った。

実名に至った理由について、安西は「当時は深く考えてませんでしたが、相手も実名で報じられているのであれば自分も実名のほうがいいと思いました」。所属している日本相撲協会や部屋に対して一切怒りはない。ただ、デイリー新潮の記者から直撃取材を受けた陸奥親方が「家庭の兄弟げんかと一緒」と語ったことには今も違和感を抱いたままだ。「兄弟げんかじゃない。普通の社会で考えたら許されないことです」と気持ちは晴れない。

一方で、陸奥親方は「協会にはちゃんと言っています。何も隠していません」と話す。同協会関係者によると、加害者は既に引退届を提出し、協会からも受理されたという。コンプライアンス委員会の関係者は「もう終わっている話なので」と、今のところ聞き取り調査の予定はない。現段階では日本協会の動きはないが、暴力を受けた安西の意思は強い。現役続行の意向も示し「告発したことで周りの目が変わることは覚悟の上です」。重い口を開いたのはあくまで「暴力がなくなってほしいと思っているだけなんです」と最後は願うように訴えた。【平山連】