大阪の繁華街・新世界でギターを奏でる泉敬三さん(撮影・松浦隆司)
大阪の繁華街・新世界でギターを奏でる泉敬三さん(撮影・松浦隆司)

大阪のシンボル、通天閣を抱く大阪市浪速区の繁華街・新世界。串カツ店が軒を連ねる「ジャンジャン横丁」の南端で、きょうも西成の路上ギタリストがギターを奏でます。客の要望に応え、「路上カラオケ」の伴奏する泉敬三さん(86)。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で「日常」は変わりました。

「よう、元気かいな。寄っていってや」。泉さんが声をかけた常連客は軽く右手を上げ、通り過ぎていきました。新世界周辺でギターを奏で続けて26年。「みんな、歌を歌う余裕もなくなってしまった…」。道端の一斗缶に座る泉さんがつぶやきます。コロナ禍で日雇い仕事は激減しています。60代の男性は「仕事にありつけへん。もう金が尽きそうや」と漏らします。

コロナ前までは、観光客らが絶え間なく通り、ギターを奏でると、人々が足を止めました。要望があれば、大好きな曲「無法松の一生」を自らも歌うこともありました。

愛媛県宇和島市の農家の三男として生まれ、13歳のとき兄が使わなくなったギターを手に取り、蓄音機を聞いて我流でコードを覚えました。20歳のころ、大阪へ。60歳でタクシー運転手を定年退職してから「自分が楽しく、人に楽しんでもらうことをしよう。できるだけたくさんの人と知り合いたい」と26年間、ほぼ毎日、路上でギターを弾いてきました。レパートリーは戦前から昭和30年代にかけての演歌を中心に約120曲。金額は客が決めるが、1曲100円が相場です。

客の中には「泣きながら歌う人もいる。それぞれが背負っているものがあるねん」。大阪府の緊急事態宣言は解除されましたが、新世界に、にぎわいが戻るのは時間がかかるかもしれません。

夜空を見上げると、緑にライトアップされた通天閣があります。新型コロナウイルスの感染拡大の警戒レベルが基準内であることを知らせる「緑」です。「よう、元気かいな」。泉さんは視線を上げ、路上から声をかけ続けます。

喜怒哀楽に満ちた人情の街、新世界。泉さんが作詞・作曲した歌があります。

♪幸せになろうねと 通天閣から~

最後のフレーズは

♪好きやねん大阪 大阪好きやねん

この街で この街で 生きていくんやもん

さあ、それでは、新世界から路上のギタリストが「新世界の歌」をお届けします。動画でどうぞ!

【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

緑にライトアップされた通天閣
緑にライトアップされた通天閣