元日本代表で06年W杯ドイツ大会に出場したFW巻誠一郎(38)が1月16日、現役引退会見を行い、競技生活に幕を下ろした。「やり残しはいっぱいある」と振り返ったが晴れやかだった。何度も笑顔を見せ、プロ16年間を回顧した。

現役で最も印象に残る試合は、逆転残留を決めた千葉時代の「奇跡のJ1残留」とされた08年のホーム最終節・東京戦(フクアリ)だという。17位でJ2降格崖っぷちだった。だが異様な雰囲気の中で選手、サポーターが一丸となり後半残り11分で4得点し大逆転。土壇場で敗れた東京、磐田を抜き15位に浮上した。残留が決まり、巻が目を真っ赤にしピッチの上で大の字になったミラクル劇だ。

当時のことは「一番印象に残るシーンで、今でも鮮明に覚えている」と言い、特にサポーターとひとつになった神がかり的な空間に「サッカーは11人じゃなく、クラブやスタッフ、サポーターなど多くの人一体で作り上げるもの。素晴らしいスポーツだと、あらためて感じた瞬間だった。サッカーをする上での原点になった」と振り返った。

思い出も、誰かのために最後まであきらめず全力を尽くす、巻らしいものだった。

熊本での5年間についても触れ「J3に降格した試合は忘れられないし、忘れてはいけない。申し訳ない」と、悔しさは残ったままだ。だが「悪かった思いを胸に刻んでいきたい」と、これを糧に今後を歩むつもり。熊本のJ3への挑戦に「1年でのJ2復帰を期待している。陰ながら応援したい」とエールを送った。

日本代表として初めて臨んだW杯ドイツ大会から学んだこともあった。ブラジル戦に出場したが「何もできず、失望感いっぱいで(日本に)帰ったきた覚えがある。世界との差はこんなにあるんだと痛感させられた。でもまだこれからやることがたくさんある」と、高みを目指す転機にもなった。

「どんな時でも泥臭く一生懸命やることや、チームのために走ることが信念だった」。サッカー人生で大切にしてきたことを、今後に生かしてもらいたい。【菊川光一】

◆菊川光一(きくかわ・こういち)1968年(昭43)4月14日、福岡市生まれ。福岡大大濠高-西南大卒。93年入社。写真部などを経て現在報道部で主にJリーグなど一般スポーツを担当、プロ野球等のカメラマンも兼務する。スポーツ歴は野球、陸上・中長距離。


千葉対東京 後半35分、FWレイナウド(左)が勝ち越しのPKを決め大喜びするFW巻誠一郎(中央)ら千葉イレブン(08年12月6日) 
千葉対東京 後半35分、FWレイナウド(左)が勝ち越しのPKを決め大喜びするFW巻誠一郎(中央)ら千葉イレブン(08年12月6日) 
千葉対東京 逆転勝ちでJ1残留が決まった千葉FW巻誠一郎はスタンドのファンと握手を交わす(08年12月6日)
千葉対東京 逆転勝ちでJ1残留が決まった千葉FW巻誠一郎はスタンドのファンと握手を交わす(08年12月6日)