FC東京が好調だ。リーグ第7節を終え、5勝2分けの勝ち点17で2位につけている。開幕7戦負けなしはクラブ新記録。悲願のJ1初制覇へ、好スタートを切った。長谷川健太監督は「選手たちは、練習時から非常に高いモチベーションと強度で取り組んでくれている」と話す。

モチベーションの源はどこにあるのか、複数人の主力選手に尋ねた。さまざまな意見の中で共通したのは「あの人を見ていたら、自分たちがやらないわけにはいかない」という言葉だった。

“あの人”はきまって、全体練習後にランニングをして最後までピッチに残る。チーム最年長のDF丹羽大輝(33)。今季はまだ、リーグ戦で出番がない。

日本代表を経験し、ガンバ大阪時代は国内タイトル3冠獲得も達成した。輝かしい経歴を持つベテランは現在、東京U-23に帯同してJ3の試合に向かうこともある。「新たな発見や成長がある」と、自ら志願して出場している。年長の選手として、定位置を得られなくても決して腐らない姿勢が後輩の刺激になっている。

丹羽は言う。

「経験のある選手って、紙一重だと思うんです。チームをいい方向に導けるか、足を引っ張ってしまうか」

良くも悪くも、年長選手は影響力が大きい。自身も数多くの先輩を見てきた。「人が好きなので」と、サッカー界にとどまらない交流も多い。あるときは学び、あるときは反面教師にしてきた。本もたくさん読んだ。そしていま、心に1つの通している芯がある。

「真摯であれ」

真摯(しんし)とは何か。丹羽は「謙虚さ、学ぶ姿勢、成長意欲を常に持つこと」と話した。「心の底からそう思えれば、どんなときでもなにがあっても、得られるものがあるんです」。

J3に参加するU-23でプレーすることもそうだ。「若いチームだから、好不調の波が大きい。そこを少しでも長くいい波の時間にできるように、どう声をかけてコントロールしていくか」。トップチームにはない仕事を、負担でなくのびしろと捉える。

「『J3なんて』と思うのは簡単だし、マイナスな部分はいつも見えがちになります。だけど、プラスなことは必ずある。ものの見方だと思うんです。自分には『悩む』という感覚がまったくありません。『いい方向へ考える』と思えばいい」

“試合に出られない”と悩むより“どうやったら出られるか”と考える。“点が取れない”でなく“どうしたら点が取れるか”と考える。「そうすれば、やるべきことがクリアになりますから」。

根っからのプラス思考とも、少し違う。

「1度マイナスなことを考えるのも自然だし、自分もそうです。そこから見方を変えるまでの時間が短いほど、いいことがあると思っています」

丹羽の顔つきはエネルギーにあふれていた。代表やリーグ優勝を経験した選手としては現状につらさもあるのでは、というこちらの想像は違っていた。

「試合に出るも代表に入るも、すべてあとからついてきたものですから。サッカー選手としてボールを蹴れる幸せを第1に感じられていれば、いつ、どこにだって成長できる部分を見つけられます」

心の中はすでに整理されている。笑顔で、力強く話す。

「ここから、また上がっていくしかありませんから。また活躍してやるんだと、モチベーションは上がるばかりですよ。丹羽大輝という選手の価値を、どうやってもう1度証明していこうか、と」

そう言って居残りで走る33歳のまっすぐな生き様が、チームの陰の原動力になっている。【岡崎悠利】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆岡崎悠利(おかざき・ゆうり) 1991年(平3)4月30日、茨城県つくば市生まれ。青学大から14年に入社。16年秋までラグビーとバレーボールを取材。16年11月からはサッカー担当で今季は主に横浜とFC東京、アンダー世代を担当。