サッカーのヘディングに将来的な健康への影響はあるのか? 選手が引退後、認知症を患うリスクが高いとして、英国ではヘディング練習を禁止すべきとの議論が再燃している。元日本代表DFでJ3岩手の秋田豊監督(50)に見解を聞いた。【取材・構成=盧載鎭】

-ヘディング議論をどう受け止めていますか。

秋田監督 ちゃんとした因果関係が解明できれば、練習だけでなく試合でも禁止するべきでしょう。

-ボビー・チャールトン氏の認知症問題が話題になっています

秋田監督 彼は80歳を超えてると思うけれど、年齢を重ねると認知症になる確率は高くなる。例えば、50歳で何人もの元選手が認知症になったなら話は別だけれど、今のところそういう話は聞かない。実際にヘディングで代表に呼ばれた私は50歳になったが、今のところノーマルな物忘れは少しあるけれど、認知症の気配はまったくないね。

-ヘディングして脳に影響したと感じたことはありますか。

秋田監督 当てるポイントが悪いと脳が揺れると感じたことはあるが、現役通して10回程度だね。脳振とうになった記憶はほぼない。特に脳が揺れると感じたのは、真正面ではなく横から来たボールを耳の下あたりでクリアした時。ぼーっとした感覚がしばらく消えない。試合中によくあることだが、直接FKの壁に入った選手が、強烈な相手のシュートが頭に当たって倒れること。それはボールが怖くて逃げるからで、ボールに向かって頭を出すと、脳が揺れることはない。

-6月に欧州連盟(UEFA)がユース年代のヘディング練習を制限しました。

秋田監督 特に小学生は空間認知能力が落ちるので特に注意が必要で、しかも首がまだ安定してないので柔らかいボールを用いる必要がある。高校生までは柔らかいボールでヘディングの感覚を鍛えた方がいいんじゃないかな。

-元チェコGKツェフは頭を保護するため、ヘッドギアを着けてプレーしていました。

秋田監督 プレーヤー全員がヘッドギアを着けるのは現実的ではないと思う。ラグビーになっちゃうよ(笑い)。それよりはちゃんとしたポイントでヘディングする練習をすべきだね。実際にヘディングが得意ではない選手は、あまり空中戦の練習はしないからね。

-今後ヘディング問題が本格化することもありえます。

秋田監督 これは健康に関する問題なので、医者などの研究者たちが体系的な研究のもとでしっかり議論すべき。FIFAが主導して研究を深めて、本当にヘディングが悪いとの結論になれば、ルール改正が必要ではないだろうか。実際にハンドという反則があるわけだから、首から上に当たると反則を取るとか。サッカーは時代によってルールを変えてきた。昔はオフサイドはなかったわけで、今は普通になっている。ヘディングだって将来的には、そうなることもあるんじゃないかな。

-ヘディングで代表にまで上り詰めた男として寂しくないですか。

秋田監督 まったくないね。もしサッカーがヘディング禁止のルールだったら、私は他の武器を備えたはず。そうなると、サッカーも変わるね。空中戦がなくなると、DFラインに長身選手を並べる必要もない。パスの精度も上がるだろうし、足技はもっと華麗になるだろう。長身FWもいらない。ヘディングがなくなれば、サッカーはまったく違うスポーツになるかもしれないね。

◆認知症 脳の知的な機能が衰え、会話や認識、手順を踏む作業が難しくなる認知機能の低下が長い時間をかけて進む症状。投薬治療などで進行を遅らせたり、改善できたりするケースもある。厚生労働省の推計では、65歳以上の認知症の人は15年時点で約520万人。25年には約700万人になり、65歳以上の人口の約20%に達する。