新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患(りかん)された方々へ、謹んでお見舞い申し上げますとともに、1日も早い回復を心よりお祈り申し上げます。


今、世界中を混乱させている新型コロナウイルス。

経済界やスポーツ界のみならず日常生活にまでこれほど大きく影響することになるとは思いもしなかった。

東京オリンピック・パラリンピックも来年に延期されると発表されたが、一番困惑しているのは選手だろう。

内定が1年先まで有効なのか、それとも開催年に最も強い選手を選び直すのか。各競技団体の判断になると思うが、選手への影響はどのようになるのかとても気になるところだ。

飛び込み競技でも、4月21日から行われる予定だったオリンピック最終選考会のワールドカップが6月に延期されると発表された。それもまだ日程も場所も決まっていない状況だ。

選手達は人生をかけて、たくさんの困難を乗り越え、オリンピック出場権に挑む。今回の場合は異例中の異例だが、心身共にギリギリの状態で臨んでいる選手たちのメンタル面をどのようにサポートするのか。

コンディションやモチベーションを維持することが簡単でないことは、私自身も経験してきたからよく分かる。この境遇を期に、コーチや関係者、そして身近にいる人々が今まで以上に団結し、選手たちの行き場の失った気持ちをサポートしていく事がとても大切になるだろう。

選手は1カ月でもパフォーマンスが変わってしまうほどの流れの中で戦っている。それが1年ともなれば、大きな変化があってもおかしくない。思わぬけがやスランプがくるかもしれない。やる事は1つでも、その道のりは毎年違う。


私も現役時代、想像していない状況になった事は何度もある。その中で必要だったのが「リスクマネジメント」だ。

これもメンタルトレーニングを始めて取り組んだことの1つだが、この世の中、予定通りに進まないことは多々ある。それをある程度想定して動く事によって、何か思わぬことが起こった時に動揺しなくて済むように準備しておくのである。

試合や遠征先で起こりうる例として、会場へ移動するバスが時間通りに出発しなかったり、試合時間が変更されたり、さらには機械の不具合や停電などで試合が止まってしまったりする。そのような事態が起こった時、自分がどのように行動するかをイメージして、脳内で1度経験させておくトレーニングだ。

私の場合、部屋に試合会場となるプールの写真を貼り、朝起きてから試合が終わるまでの一連の動きをさまざまな事態を想定しながら何度も脳内でイメージした。

本当に経験していなくても、頭の中で1度イメージを描く事ができれば、脳内に「経験」として残る。そのため、現実に起こった時も「経験済み」として冷静になれるのだ。


ありがたいことに日本という国はとても時間に正確で、緊急事態への対処をあらかじめ準備してあったりと、あまりそのような事態に遭遇しない。しかし海外では何が起こってもおかしくない状況で試合が行われたりする。

本番の緊張した状態で、何が起こっても柔軟に対応できるとすれば、無敵だ。私は試合前には緊張から小さな変化も気になるほど敏感になってしまう性格だったため、この方法は自分を安心させるためにとても有効だった。

このような事態が起こっていない時にでも、やる気を失ってしまうことはある。私がモチベーションを保てず、頑張ることに疲れた時は、年齢に関係なく頑張っている人やすごいなあと思う人をよく見るようにしていた。

違う競技の選手でも、ライバルでも、まだ競技を始めたばかりの小学生でもいい。やる気は連鎖する。

今回の新型コロナウイルスに関しては世界中が想像しなかった事例だろうが、みんな同じ状況である事には違いない。その中でどれだけ自分の気持ちを早く切り替え、この状況を理解し、また前向きに歩めるかが乗り越えるために必要になるだろう。

今日は4月1日、エープリルフール。今世界中で起こっている全ての事がうそだったと誰か言ってほしい。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)