進路に関する会見を行った明成・八村(中央)。左は佐々木校長、右は佐藤ヘッドコーチ
進路に関する会見を行った明成・八村(中央)。左は佐々木校長、右は佐藤ヘッドコーチ

NBAドラフトでワシントン・ウィザーズから1巡目9位で指名された八村塁(21=ゴンザガ大)の恩師、佐藤久夫HC(69)はNBA選手誕生を「偶然」で終わらせたくないと思っている。

5月初旬の能代カップ。192センチのフォワード越田大翔(2年)が、ポイントガードとしてプレーしていた。その意図を尋ねると「型にはめないで、もう1つ上のカテゴリーでやれるプレーヤーにしたい」と話した。そして「大型化は勝つ名誉を捨ててでもやりたい。目先の勝ち負けもあるし、そりゃあ明日だって勝ちたいけど、間に合わないよなあ。勝負と将来性のはざまでね」と揺れる思いを口にした。

NBAドラフトを前に取材依頼が殺到したが、自らが注目されるのを嫌い、全てを断っていたと聞いた。八村に関する話題は禁句ムードが漂う中、話は熱を帯びた。「日本一も1回はまぐれでとれても、2回3回となるとコーチとしての信念を作り上げなければできない」。そしてふいに八村の名が飛び出した。「八村も大活躍しているけど、アメリカでの3年間は本人の頑張りがあったんだよ。ただ、オレとしては八村のような選手を明成からもう1人。そういう場に立てる選手を作るのがモチベーションになっているんだよ。可能性を引き出してあげて、次のもう1人をね」。うれしそうにメモをとる私に最初は「これはオフレコだぞ!」と言われたが、どうしても書きたかったので、お願いに行くと「しょうがねえなあ」という顔で許してくれた。

仙台高で2回、明成高で5回ウインターカップを制した名将は10月に70歳を迎える。「オレにとってはラストチャンスなんだよ。これだけ有望な選手がウチに来てくれているんだからさ」。歴戦のバスケットボール専門誌の記者の方々を前に、昨年12月に赴任した新参者の50歳記者が恐縮しながら質問しようとすると、「3、2、1、はい、時間切れー」「もう耳も悪いんだよ。もっとはっきり話してくれなきゃ聞こえないよ」と笑い飛ばすなどユーモアにあふれる。コートでの情熱にも衰えはない。第2の八村が仙台から出現する日も遠くないかもしれない。    【野上伸悟】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆野上伸悟(のがみ・しんご)1968年(昭43)7月19日、神奈川県横浜市出身。光陵高-慶応大。高校時代はサッカー部。92年4月、日刊スポーツ入社。写真部でのカメラマンを皮切りに一般スポーツ部ではゴルフ、静岡支局ではJ1清水、磐田、高校サッカー等を担当。98年11月から再び写真部。昨年12月に東北総局に異動し、20年ぶりの記者復帰で悪戦苦闘中。

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