どっちが偉い?丹精こめて毎日盆栽に水をやる。隣の畑に別の木を植える。

各界トップ達にインタビューした1991年の連載「21世紀への伝言」。京大の名物教授だった森毅さんの大学論は30年以上たった令和の今でも参考になる。これは、21世紀の日本人に送る「20世紀からの伝言」である。(※所属、肩書き、年齢、表現など1991年当時のまま)

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久保勇人

<21世紀の日本人に送る20世紀からの伝言> 数学者・森毅さん(復刻連載2=1991年6月6日紙面掲載、所属、肩書き、年齢、表現など当時のまま)

最近大学を舞台にした事件、問題が相次ぎ、改めて最高学府のあり方が問われています。森毅さんは大学を「いろんな人がいて、いろんな機能を持つ都市」とし、固定観念に基づいた幻想、イメージを捨てて付き合うべきだと提案します。京大の元名物教授が語る「大学論」。

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今、みんな大学ってものを機能的に一つに決めたがるのと違うか。例えば、大学は勉強するとこや、いうのはおかしい。学問の府というのもあやしい。研究生産の中心とか、サラリーマン養成所いうのもおかしい。そうかといってレジャーランドと割り切るのもヘンなんよ。

僕は大学というのは「都市」みたいなもんや思う。図書館もあれば、パチンコ屋もある。オフィス街もあれば、飲み屋もある。「何か一つ」と思うからヘンになるんや。

大体「大学は研究、教育」いうけど、日本はすべて研究みたいに言うねん。学内行政は雑用、教育だって雑用に準ずるぐらいに思うてる人、結構いるわけ。米国の場合は研究4割、教育4割。行政は専門家がやって、あとの2割は社会的活動やあちこちの雑誌によく原稿を書くとか講演をするとかいう「知的芸能」の部分。日本では、それあんまりやると「あいつは外でなんかして」と悪く言われる。大体、研究なんて本気でやるのは40歳までや。30歳代はしゃあないけど、40過ぎて何の屈託もなく研究いうのんは、アホやでえ。一つこと20年ぐらいやってると、いいアイデア出尽くすのよ。数学みたいな軽薄な学問だけか思うて、ほかの学部のヤツに聞いたら同じやった。

つまり大学の先生も20年過ぎたら、丹精込めた盆栽に毎日水やるより、隣の畑に別の木を植える方が偉いんちゃうか。例えば20年間心理学やって、あと20年間社会学やろうか、とかね。

僕は、日本の大学の閉鎖性はいつまでも持たへんし、大学も変わると思うとる。例えば、米国も20年ぐらい前に大学がつぶれるといわれたけど、結局、エスニックや今まで大学に進学しなかった層、社会人、高齢者なんかを大量に吸収してつぶれんかった。日本の大学は外国人や社会人が特別少ないよね。これから外国人が増えるに決まってる。

大学も3割が外国人になるといい。世界の相場やもん。米国の学生で何苦労するかといったら「英語で苦労する」いう。先生やら友達がヘンな英語しゃべるから。日本だって中国語なまりやフィリピン語なまりの日本語が、大学ぐらいで横行したってええ。あと、おじさん、おばさんが3割ぐらいいたらいい。今は18歳の子供が「これから社会に出ます」っちゅうような感じでいるから暗いんでね。老若男女入り交じって、本当の街になる。それが大学として本来の姿であり、一番正常な姿や思います。

◆伝説のゼミ 森さんの京大時代のエピソードは多く、そのほとんどが伝説化している。思想界の若手NO・1論客、浅田彰氏(34)を輩出した「自然科学史ゼミ」は、20人ほどの定員に数百人が登録し、いつからか“ホコ天ゼミ”と称して屋外の木の下で行われた。学外の通行人も自由に参加、森さんのおしゃべりに耳を傾けた。それだけの数になると試験の採点も大変。リポートは「パッと見た印象で、ありふれてるか、ちょっと気になるか、分かった。ありふれてるのは機械的に70点。あと半分だけちゃんと読んだ」。浅田氏の印象は「とにかく森羅万象、何でも知ってるヘンなヤツやった」そうだ。(※所属、肩書き、年齢、表現など1991年当時のまま)

★森毅(もり・つよし)1928年(昭3)1月10日、東京生まれの大阪育ち。旧制三高(現京大総合人間学部)を経て、東大理学部数学科卒。東大時代に評論活動を始める一方、長唄、三味線などを習得。一時は芸能関係の業界に入ることも真剣に考えた。1951年北大助手になったが、1956年に突然辞職、全国を放浪し始めて話題になった。1957年に京大助教授になり、教養部教授を1991年春に定年退官、名誉教授。京大時代から、数学教育問題に取り組み、数学教育協議会副委員長も務めた。教え子に浅田彰氏など多数の人材を輩出。著書は「文化と数学」「学校ファシズムを蹴っとばせ」「ものぐさ数学のすすめ」など多数。2010年7月に82歳で死去。

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