想像を超えていく宇野昌磨のコメント力 世界歴代3位の記録に「何でだろう」

フィギュアスケート宇野昌磨選手の「思考」を読み解くコラムです。今の自分を見失うことなく、横にも縦にも決してぶれない。そんな彼の姿は今も昔も、少しも変わっていないことが分かります。

(2021年4月19日掲載 所属、年齢など当時)

フィギュア

松本航

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小学生の頃に算数で「コンパス」を使った。支点となる針を紙に刺し、鉛筆の部分で、ある場所に印を刻む。

4月18日、丸善インテックアリーナ大阪。18年平昌オリンピック(五輪)男子銀メダルの宇野昌磨(23=トヨタ自動車)は、今季最終戦となる世界国別対抗戦を終えた。オフシーズンへと入る節目に、約10カ月後に迫った22年北京五輪への思いを問われた。宇野はこのように言った。

「僕はやっぱり先のこととか、過去のこととか、あんまり気にしないというか…。気にしないというより、僕は今を一番気にしたいし、気にしてしまう性格なので。僕が今いるこの場所、昨日までの試合、そしてシーズンオフに入るにあたり、どうするべきかとかは具体的に考えています。先のことになると、その時、自分がどういう状態で、どういうコンディションで、(五輪に)出場できるのかも全然決まっていない。(五輪に対し)深くイメージすることは何もないです」

この言葉を、取材者の1人として、次の1年への「支点」にしたいと思った。

世界国別対抗戦エキシビションで演技をする宇野昌磨(2021年4月18日撮影)

世界国別対抗戦エキシビションで演技をする宇野昌磨(2021年4月18日撮影)

1156日前にさかのぼる。2018年2月17日、宇野は平昌五輪のフリーを終えて銀メダルを手にした。取材エリアで次々に質問が飛んだ。「五輪の雰囲気」を問われ、こう言った。

「五輪に最後まで特別なものは感じなかったです」

ここだけを切り取れば「五輪軽視」のようにも捉えられた。だが、取材歴1年足らずだった当時でも、その言葉が一貫した考えで成り立っていることは分かった。前年夏の時点から「五輪」「メダル」という質問に対して「僕の中ではどの試合も悔しい思いをしたくない。いい演技をしたい。それは、どの試合もかかわらず思う」と答えた。実際に五輪のリンクに立っても「1つの試合」というスタンスは変わらなかった。

宇野のコメントはいつも興味深い。勝手に想像したものと、違う答えを聞くことが多いからだと考える。

世界国別対抗戦エキシビションで演技する宇野昌磨(2021年4月18日撮影)

世界国別対抗戦エキシビションで演技する宇野昌磨(2021年4月18日撮影)

319・84点、世界歴代3位-。

国際スケート連盟(ISU)の公式サイトを開けば、今も17-18年シーズンまでの自己最高得点を確認できる(同シーズン終了後に新ルール採用でリセット)。宇野が羽生結弦(ANA)、ネーサン・チェン(米国)に次ぐ高得点を記録したのは、17年ロンバルディア杯(イタリア)だった。

得点を見た時に「大満足では?」と思った。だが、同杯に向けた練習の自己評価以上に高得点が出たことで、喜びは控えめだった。

「うれしさよりも『何でだろう』っていう気持ち。自分ができること、実力を出して、満足したい」

「見る者」と「する者」の、ギャップが興味深い。

逆の意味では、今季最終戦も同じだった。世界国別対抗戦はショートプログラム(SP)が9位、フリーが6位。演技を見て心配する声も多くあった。宇野は思いのほか前向きだった。

「もちろんふがいなさはありました。練習ができて、本番ができなかったら悔しい。(今回は)悔しいというより、ふがいない。この試合で気持ちが落ち込んだとかは、あまりありません。この試合に向けて練習してきた自分に、気持ちが入っていなかった。今後の教訓にして、生かしていきたいと思っています」

演技に対する一喜一憂ではなく、過程を反省した。

宇野昌磨(2021年4月15日撮影)

宇野昌磨(2021年4月15日撮影)

シーズンオフを経て、7月から来季が幕を開ける。

夏、秋、冬…。北京五輪は刻一刻と近づいてくる。

「今」を大切にする宇野の思いは、変化していくのだろうか。その答えは、現時点で誰にも分からない。

コンパスでいう「鉛筆」の部分。その着地点を楽しみに追いたい。

世界国別対抗戦・男子SPの演技を終えて日本チームに向かって手を合わせる宇野昌磨(2021年4月15日撮影)

世界国別対抗戦・男子SPの演技を終えて日本チームに向かって手を合わせる宇野昌磨(2021年4月15日撮影)