車いすラグビーの日本代表に新しい顔が加わった。中町俊耶(25=TOW、東北ストーマーズ)は9月に行われたワールドチャレンジで国内開催の国際大会にデビュー。ケビン・オアー監督(51)が強化目標の1つに掲げるミドルポインター(障がいが中程度の選手)で、左腕から放つ正確なロングパスがストロングポイントだ。大学1年まで野球部の投手だった中町の成長とメンバー定着は、来年の東京パラリンピックで金メダル獲得を目指す日本にとって大きな力になる。

■9月代表国内デビュー

ブラジルとのワールドチャレンジ開幕戦だった。9月16日、東京体育館。中町は第2ピリオド(P)途中からコートに入った。正確なパスでチームメートのトライをアシストし、絶妙な位置取りで相手の攻撃を食い止めた。第3Pも途中出場で、第4Pはスタートからプレーして、自らも計3トライ。国内での国際大会初陣を白星で飾った。

中町は柔らかい笑顔で言った。「試合に出て自分のプレーをすることが目標でした。持ち味? やっぱりパスですかね」。左腕から放つパスは力強く、距離が出て、正確だ。小1で始めた野球では投手、一塁手として活躍。共栄大1年時に練習中の事故で頸髄(けいずい)を損傷して胸から下がまひし、両手の握力もない。左手は人さし指以外がわずかに動く程度だが、サウスポーの感覚が残った腕からトライにつながるキラーパスが生まれる。

オアー監督が就任した17年に日本代表強化選手になり、2度の海外遠征に参加した。日本が世界選手権を制した昨年は体調不良もあって試合出場の機会はなかったが、今年に入って代表に定着。5月の4カ国対抗戦(米国)、9月のアジアオセアニア選手権(韓国)にも出場した。障がいの程度による持ち点は2・0。ライン(選手の組み合わせ)を多彩にし、チーム力の底上げを図るオアー監督が強化ポイントとするミドルポインターでもある。

「ワンハンドで長く正確なパスを投げられる2・0の選手はなかなかいない」とオアー監督。ロングパスの使い手である池主将も「左利きでパスセンスがいい。彼は日本の強みになってきている」。東京パラで金メダルを目指す日本にとって、中町のプレーは新たな武器になる可能性を秘めている。

ワールドチャレンジの出場機会はブラジル戦だけだった。東京パラまであと10カ月。中町は初めてオアー監督と面談した17年1月のことを思い起こす。「2・0だからといってその枠にとどまらず(障がいの軽い)3・0のようなプレーをしてほしいと言われたんです」。その時、障がいの枠を超えて自らを高めていこうと決意した。「まだ、時間はある。体力、スピード、チェアスキルを向上させて、プレッシャーを受けてもパスが出せるようにしたい。東京のメンバーに入る自信、あります」。力強い言葉に決意がこめられていた。【小堀泰男】

◆中町俊耶(なかまち・しゅんや)1994年(平6)8月30日、埼玉県北本市生まれ。同市立北本北小1年から北本リトルジャイアンツで野球を始め、同市立宮内中時代は硬式クラブの大宮東シニアでプレー。本庄第一高を通じ左投げの投手、一塁手。共栄大1年時の受傷後、所沢市の国立障害者リハビリテーションセンター入院中に車いすラグビーを始め、2015年から2年間はブリッツに在籍。17年に東北ストーマーズに移籍し、同年から日本代表強化選手。家族は母と兄。イベント企画運営会社のTOW勤務。

 

■ワールドチャレンジ

世界ランキング10位以内の8チームが参加した東京パラリンピック前哨戦で、9月16日から5日間、東京体育館で行われた。昨年の世界選手権王者で世界2位の日本は4チームずつに分かれた1次リーグを3連勝で突破したが、準決勝で同1位オーストラリアに惜敗。3位決定戦で1次で戦った世界4位の英国を下した。決勝は世界3位の米国が59-51でオーストラリアに快勝した。日本はオーストラリアに世界選手権決勝で勝ち、9月のアジアオセアニア選手権決勝で敗戦。この4チームは5月に米国で2回戦総当たりのリーグ戦を行い、全チームが3勝3敗で並ぶほど力が拮抗(きっこう)している。

 

<4人合計8・0点以下の組み合わせで多彩変化>

車いすラグビーの選手は障がいの程度でクラス分けされ、持ち点がつけられる。重い方の0・5点から軽い方の3・5点まで0・5点刻みに7段階で、プレーする4人の持ち点合計が8・0点以下でなければならない。3・0以上の選手をハイポインター、1・5以下の選手をローポインター、中間の選手をミドルポインターと呼ぶ。

選手の組み合わせがラインで、中心になるのは「ハイローライン」。障がいの軽い2人と重い2人で、日本では攻撃的な池、池崎(3・0)と守備的な若山、今井(1・0)らの組み合わせになる。これに対してミドルポインターが加わるのが「バランスライン」で、池崎(3・0)中町(2・0)乗松隆、乗松聖(1・5)や橋本(3・0)中町、羽賀(2・0)若山(1・0)の組み合わせだ。

相手のラインに対応しながら試合を通じて選手を入れ替え、ハイパフォーマンスを維持することが勝利につながる。多彩なラインで戦えるチームは強い。