男子65キロ級で奥山一輝(23=サイデン化学)が日本新記録3連発のビッグパフォーマンスを披露した。

1回目に143キロを挙げた。いきなり自らが今年2月にマークした日本記録を3キロ上回った。2回目は148キロに成功。そして、最終試技は151キロ。会場内に響き渡る絶叫とともに押し挙げた。3回の試技で自己ベストを一気に10キロ更新した。

「10キロアップはとてもうれしい。調子よくいって、自分でもビックリしています」。今春、順大を卒業して社会人になったが、所属するサイデン化学での業務はなし。競技専念のプロアスリートとして活動を始めた。それに合わせるように新型コロナウイルスの感染が拡大。4月から約2カ月の自粛期間は自宅でのダンベル・トレーニングを余儀なくされた。

「体が細くなって…。周りからも小さくなったと言われたんです。それで…」

現在も練習拠点の母校・順大には通えないが、自粛明けからは日本連盟・吉田進理事長が運営する都内にジムで意欲的にトレーニングに取り組んだ。一時は体重が50キロ台に減ったが、逆に自粛期間がいい休養にもなり、現在は以前よりも筋量が増え、体も大きくなったという。

先天性の二分脊椎症のため両脚が不自由で、小学6年で始めた車いすテニスで世界を目指していた。千葉・古和釜高2年の時に参加したパラスポーツ体験会でパワーリフティングに出会い、両競技を並行しながら17年の世界選手権59キロ級ジュニアの部で銅メダルを獲得したことで、今はパワーリフティングに専念している。

65キロ級は世界的にも層が厚く、レベルも高い。東京パラリンピック出場を争うランキングは現在17位。圏内の8位に食い込むためには185キロを超える記録が目安になる。ただ、この1年で20キロ近く自己ベストを伸ばしてきた勢いがある。

「(東京パラが)1年伸びて僕はいいチャンスをもらった。もしかしたら(出場権獲得に)かかるんじゃないかな、と。記録がギリギリ伸びてくれるんじゃないかと思っています」

奥山が逆境をプラスに転じ、ビッグサプライズを起こすのか。急成長のパワーリフターから目が離せない。【小堀泰男】

◆パラ・パワーリフティング 下肢に障がいを持つ選手が対象で、台上にあおむけになった状態でバーベルを押し上げて重量を競うベンチプレス競技。東京パラでは男女各10階級が行われる。最低出場標準記録をクリアし、国際パラリンピック委員会が指定する国際大会の成績が反映されるランキングで、来年6月までに上位8位以内に入れば出場権が得られる。