【整氷の達人〈上〉】坂本花織、三原舞依が駆け寄った先に…今も現役85歳高橋二男

日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜日にフィギュアスケーターのルーツや支える人の信念に迫る「氷現者」をお届けしています。

シリーズ第18弾は、リンクの設営、運営などに携わる「パティネレジャー」社の高橋二男(ふたお)にスポットを当てます。スケートとの関わりは60年以上。85歳のいまも現役として試合などの整氷作業に従事します。リンクで表現するスケーターを支える「氷現者」。その来歴をひもときながら、整氷という仕事の生き様に迫ります。(敬称略)

フィギュア

   

23年世界選手権、練習の合間に坂本(左)と言葉を交わす高橋二男

23年世界選手権、練習の合間に坂本(左)と言葉を交わす高橋二男

世界選手権、次々挨拶に訪れる選手たち

それはわずかな時間の、わずかな会話だった。

ただ、リンク上で向き合った2人を目にした者には、そこに信頼と親愛が共有されていることが伝わってきた。

3月のさいたまスーパーアリーナでのこと。世界選手権の公式練習だった。

2連覇がかかっていた坂本花織が額に汗しながら、練習時間の終わりにリンクを降りようとする間際、駆け寄った。そして、いつもの朗らかな微笑をたたえ、何やら声をかけていた。

その相手は小さなバケツを手に持って、リンクに視線を落として穴を探しているところだった。雰囲気を察してか、顔を上げて、坂本を見返すと、こちらも朗らかに笑った。

「いつものことなんですけどね、うれしいですよね。花織ちゃんは本当に気さくで」

リンクの整氷作業をしていた高橋は、その時の事を思い返して、また目尻を下げた。

「会話ですか? 『昨日は何か食べに行ったの?』とかそんなんですよ」

選手にとっても、緊張感ある勝負の場での気持ちが和らぐ瞬間なのだろう。

駆け寄ってきた三原(左)ともひと言ふた言

駆け寄ってきた三原(左)ともひと言ふた言

また一人、別のスケーターがあいさつに来た。三原舞依も同じようににこやかにひと言、ふた言。

「基本的に僕はちょうど朝の練習からずっとリンクにいますでしょう。選手が入ってくると、誰かじゃなく、回ってくる選手はほとんどあいさつしてくれます。その中で、あの2人はですね、特に大阪で競技会に行ったりもしてましたんで、小さい頃から知っていますし、そんな関係で」

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。