突如プレミアリーグの中断が発表されたのが3月19日でした。丸々1カ月経過した今も全く再開のめどは立っていないというのが現状です。本当に先が見えない中、ある種クラブの耐久度を試されているような感覚を覚えつつ、改めて一刻も早く終息を願うと言ったところでしょうか。そのような中、ヨーロッパの現地から1つニュースが飛び込んできたので今回はこれをご紹介したいと思います。

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そのニュースに関わるのは武藤選手が所属するプレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッド・フットボール・クラブ。1893年に創設され、イングランド北部に本拠地を置くクラブで、筆者も数度訪問したことがありますが、セント・ジェームス・パークはウォーミングアップしている選手と観客が会話できるぐらいピッチと観客席の距離が近い、とても奇麗なスタジアムです。そんな古豪とも言えるクラブに売却の話が浮上しました。

浮上といっても、数年前からこの話は存在していました。それはクラブのマイク・アシュリー会長が非常にビジネスライクな存在で、フットボールで勝つというよりいかに健全にビジネスを行うかに重点を置いているからです。購入時に抱えていた150億円超とも言われた巨額の負債を短期間で完済するなどファイナンスにおいては完璧でした。クラブ運営以外の所でも数多くのM&Aを手掛けるなど、非常にビジネス面でのやりくりにたけた手腕の持ち主であります。そのマイク・アシュリーが会長になってからは、選手の獲得に大きな予算を回さずいかに低コストでチームを経営・運営するかという部分に重きが置かれていたようです。人件費を約6割に抑えるなどある種、超優秀とも言える手腕を発揮するも、ピッチの現場からは、強化費が全く予算化されず歴代監督は嫌気を差して辞任が続いています。記憶に新しい2018−19シーズンはなんとか残留したものの、悪夢の開幕7試合連続未勝利という不名誉な出来具合からファンも嫌気がさしているのが現状です。

そのようなチームに対して、名乗りをあげたのはアラブ首長国連邦(UAE)富豪、シェイク・ハレド・ビン・ザイド・アル・ナハヤン殿下。ナハヤン殿下は、大学院の同期であるUAEの皇族情報によると、ハリファ・アブダビ首長兼UAE大統領は彼の異母兄にあたり、サウジアラビアの若き実力者と言われているムハンマド・ビン・サルマン皇太子と仲が良く、トランプ米大統領からの信頼も厚いなど米国の中東政策に大きな影響を与えているとされる人物でもあるようです。総合商社のような形で企業を運営し大富豪となりましたが、最終的にはこのニューカッスルの買収はサウジアラビアのサルマン皇太子に譲った模様であると、サウジアラビアの現地でも報じられており、とにかくこのグループが買収するのは間違いなさそうです。

しかしながら、このサウジアラビアの皇太子は暴君でも名を馳せており、トラブルメーカーであることでも有名です。最近ではカタールに本拠地を置く、プレミアリーグの放送権利料で大きく収益を得ているBeIN Sportsとも揉め事を起こすなど、近隣諸国と国境を超えた揉め事も多数。そのような巨額の富がまたプレミアリーグに入り込んでくるというわけなのですが、今まで取り上げてきたFIFAファイナンシャルフェアプレーにあるワンオーナーのポケットマネーによる高額移籍金の支払いや赤字の補てんは認められないというルールは当てはまらないのでしょうか…? 現在のニューカッスルはマイク・アシュリー敏腕会長の手腕により赤字はなく、実際のところ、アラブ諸国の新オーナーによる高額選手の買い取り補強は間違いと見られておりますが、このあたりはどうなのでしょうか。

とはいいつつも、冷静に考えてみると十数年前に当時の金額で約1億3400万ポンド(当時約200億円ほどと言われていた)という価格で購入したクラブが、10年ちょっとで倍近くの金額である約3億ポンド(日本円で約400億)で売却することができるのであれば、このご時世、当然クラブを売ることに走るのは当然かもしれません。会長に対するファンからの怒りだけは大きく残りそうですが、クラブの今後の動きに注目しましょう。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)