今シリーズ第2回はJ3・SC相模原GK川口能活(42)の感性からヒントを探る。国際AマッチGK歴代最多116試合出場。ワールドカップでブラジル希代のストライカー、ロナウドから得た教訓をもとに日本人が目指すべきゴールへの道を語った。【取材・構成=井上真】

 川口 僕はW杯の舞台で超一流のシュートを受けてきました。バティストゥータ、ロナウド、アネルカ。そこから得た決定力のイメージがあります。偉そうに上から言うのではなく、僕が感じたことが何かの参考になればうれしいです。

 川口に強烈なインパクトを残したのは、06年ドイツ大会でのブラジル戦。あの怪物ロナウドがいた。

 川口 ロナウドは、常に自分の形に持ち込み、シュートに集中していました。印象に残ったのは、枠を外しても、GKに止められても、全く気にせず、次のチャンスを狙っていたことです。GKは、シュートを打たれることが一番イヤなんです。顔色変えずに淡々と狙ってくる、それが恐怖でした。外して両手で頭を抱えてくれれば、もうこっちの勝ち。少しでも精神的に優位になれますから。でも、ロナウドはそんなそぶりはみじんもなかった。

 そして最も驚かされたのが、試合中のアジャスト能力の高さだった。

 川口 試合の序盤では恐らく彼は6~7割くらいで打っていたと感じました。90分間フルに受けた私だからの感じ方です。試合の最初にシュートした感覚から、少しずつタイミングや、力の入れ具合を上げていったようでしたね。「今日の自分はこういう感じか。じゃあ、次はもうちょっと上げていこう」。そんな雰囲気がありました。

 試合は1-4で敗れる。ロナウドに前半ロスタイムにヘッドで同点弾を決められ、後半36分にはチーム4点目を決められた。

 川口 特に4点目のシュートは、コースも、強さも、GKには止められない完璧なシュートでした。最後にフルパワーで打ったんだと思います。

 そこから感じ取った川口の決定力への考えは非常に興味深い。

 川口 日本はどうでしょう? 序盤の決定機を外せば、もうネガティブな空気がピッチを覆う。最初のシュートを決められなかったことで、もうその試合は終わったかのようなムードになる。強国相手にチャンスは少ないと決めつけている。でも大切なのは試合を決める1点であるはずです。シュートは確率ではないと思います。90分のゲームの中で、重要な得点機のシュートです。勝つための点が大事であって、率を高めることと感じてないですか? ゴールを守る側として、怖いのは確率に一喜一憂するストライカーではなくて、繰り返し狙ってくるFWです。シュートミスに動じないメンタリティー、それが威圧感となってGKを脅かす。それが勝負を左右する決定力につながるのではないでしょうか。

 日本代表は勝ちに直結するゴールを外すから、決定力不足として嘆く。だが、ロナウドでも外す場面は数多くある。それでも、勝つためのゴールへの作業は継続される。

 川口 日本ではきれいなゴールを志向する傾向を感じます。パスをつなげてDFを崩し、数的優位から決める。分かりやすくて、サポーターも喜びます。ただ、W杯や世界のトップリーグでは、そんな場面からの得点ばかりではありません。パスの出し手はギリギリを狙い、そのピンポイントに飛び込み、触るか触れないかの紙一重からゴールが生まれる。それが今の最先端のゴールシーンだと感じています。そこに可能性を見いだしているのが、プレミアで戦う岡ちゃん(岡崎慎司)だと思いますし、日本人もどんどんそういう場で世界と向き合ってほしい。そのせめぎ合いに身を置くことで、得点への形が見えてくると、僕は感じています。

 ◆W杯ドイツ大会ブラジル戦VTR 日本は玉田のゴールで先制も、前半ロスタイムにロナウドのヘッドで同点。後半8分、ジュニーニョの無回転シュートで逆転。14分にはロナウジーニョのスルーパスをジウベルトが決めて2点差。さらに36分、ロナウドが右サイドから23メートルの強烈なミドルシュートを決めた。ブラジル22本のうちロナウドは両チーム最多の7本。15分ごとに区切っても前、後半のどの時間帯でもまんべんなくシュートを放った。川口はマイアミの奇跡としてブラジルに勝利した96年アトランタ五輪で、28本のシュートを浴び無得点に抑えた。大舞台で王国ブラジルのシュートを最も受けた日本のGKといえる。