現在U-16日本代表を預かる森山佳郎監督(50)は、広島ユースの監督経験も持つ。昨秋はU-17ワールドカップインド大会で当時15歳のFW久保(東京)らを率いて16強まで進んだ。同年代の海外勢と対戦し、残ったのは危機感だった。「例えばイングランドの選手は17歳でプレミアリーグに何人も出ているわけです。ドルトムントで7番をつける選手もいる」。17歳は強国ではトップでレギュラー争いをする年齢。日本のこの年代でJ1で出場時間をある程度得ているのは久保やG大阪の17歳、FW中村らごく一部である。

 部活動とJユースは3年間の身分保障という点で共通する。だが、高次元の競争がある海外の育成年代は異なる。14年W杯ブラジル大会を制したドイツの育成関係者に日本の指導者が「モチベーションが低い選手を奮い立たせるにはどうすればいいか」と質問したところ、相手は意味を理解できず首をかしげた。「何でそんな選手に構っている必要があるのか。やる気のない人間は消えていくだけだろう」。向上心のない者は容赦なく淘汰(とうた)されていく。

 また、指導の違いでユニークな例がある。「練習場にボール1つと選手1人。選手は何をするだろうか?」と聞かれると、日本の指導者は「リフティングをする」と答え、ドイツの指導者は「シュート練習をする」と答える傾向が強いという。選手2人なら日本はパス練習、ドイツはDF付きのシュート練習。3人なら日本は2対1、ドイツはGK付きの1対1。5人なら日本はDF1人のパス回し、ドイツはGK付きの2対2…。ドイツでは初歩の段階から、サッカーとはボールを奪い取り、点を取る戦いだという考え方が植えつけられる。日本とは精神性が異なる。この違いが各国の代表チームで出来上がるサッカー像の違いになる。

 森山監督は「サッカーに対するマインドが違う。それは指導者に起因するところも大きい」とみる。海外では指導歴が長いベテランが育成年代を担当することが多い。トップクラブ以外は高額な選手を獲得できないため、移籍金など育成から生まれる収入が経営に大きく関わるからだ。対してJリーグではトップの指導者になるための“ステップ”として育成年代が使われがちだ。「現役を引退したばかりの人がとりあえずジュニアユースの育成をやる、というのが最良かは議論の余地がある」と投げかけた。

 最後に下部組織の価値の「測り方」について、森山監督は問題提起する。「例えば、1年生でものすごい才能があるかもしれない選手が機会を得られず、3年生でプロはならないだろうけど平均値は高い、という選手が試合に出ているわけです。目の前の試合に勝とうと思ったら自然とそうなりますよね。でも、そういうのが問題だと思う」。育成の根源的な役割である「将来の日本サッカーの強化」を考えるなら、下部組織の価値は勝利ではなく、シニアの一流選手を育てた数で測られるべきではないか。育成年代の指導者の価値を変えなければ、地位や立場、給与も改善されない。W杯に6大会連続で出場する日本が、強国から学ぶべき点は多くある。【岡崎悠利】(おわり)