日本対イラン 後半アディショナルタイム、冨安へのファウルからもめる両選手たち(2019年1月28日撮影)
日本対イラン 後半アディショナルタイム、冨安へのファウルからもめる両選手たち(2019年1月28日撮影)

乱闘騒動となったアジア杯準決勝のイラン戦の翌日、日本代表DF長友佑都がツイッターで発信した内容を紹介した本紙の記事を読んでいたら、ふと遠い記憶がよみがえった。

以下抜粋記事 3-0になった後半ロスタイムにイランの選手との小競り合いから、両チーム入り乱れる騒動が起きた。長友も相手MFハジサフィに後ろからつかまれてなど、多くの選手が激高していた。だが、自身のツイッターで「終了間際の乱闘は腹立った」と記した。だが「エレベーターでイランの選手と一緒になり、昨日はごめんねって謝ってきた」と謝罪があったことを明かした。さらに「自分も挑発したから謝った。熱くなってたものがすっと消えた。ピッチ上は国を背負いプライドがぶつかり合う」と和解した。最後に「ピッチ外では同じ人間で仲間だ。スポーツの素晴らしさを感じた瞬間」と記し、改めてスポーツの良さを実感していた。

エレベーター内での心温まるエピソードに触れた瞬間、記憶の扉が開いた。エレベーターから降りてきたのは車椅子に乗ったアジジだった。97年11月16日、マレーシア・ジョホールバル。日本代表が初のワールドカップ(W杯)出場をかけてイランと戦ったフランスW杯出場第3代表決定戦。その前日に選手宿舎となっていたホテルのロビーで待機しているとエースFWアジジが右ひざに包帯を巻き憔悴(しょうすい)仕切った姿で車椅子で運ばれてきた。慌てて肩にかけていたカメラで連写した。だが、何だか様子がおかしい。包帯の巻き方が不自然だし取り巻く関係者のそぶりも怪しい。行く手を遮るようにフラッシュを浴びせる日本人カメラマンの姿を見て薄ら笑いを浮かべた瞬間、フェイクだと悟った。勝ち抜くため、下手な芝居もいとわないイランの徹底ぶりに驚かされ、苦笑いしながらシャッターから指を離したことを思い出した。

そんな思いを巡らせながら21年前の記憶をたどるように宮崎・日南キャンプを打ち上げた横浜FC・FWカズ(51)の元を訪れた。延岡市でキャンプを張っていた担当チームのベガルタ仙台の練習が完全非公開となり、レンタカーで東九州道を120キロ南下しJ2アビスパ福岡との練習試合を取材した。グアム島での自主トレでは体幹をみっちり鍛え上げ、キャンプインから3試合実戦をこなし、仕上がりも上々な様子だった。試合では、後半途中出場し終了間際に訪れた決定機を福岡FW森本貴幸(30)に阻まれた。こぼれ球に左足で反応しシュートを放ったが、間一髪のタイミングで「かわいい後輩」の左足が伸びゴールはならなかった。カズさんの「今季初ゴール」を狙ってレンズを向けていたカメラマンは「森本! 空気読めよ」と嘆き苦笑い。カズも「余計なことしてくれたよね。分かってませんね。あいつにも意地がありますから」と冗談交じりで悔しがり、場を和ませた。

くしくも偶然ここに居合わせカメラマンこそ、「ジョホールバルの歓喜」で撮影チームを組んだ懐かしの戦友たちだった。週刊プレイボーイの仕事でカズを密着取材しているフリーカメラマンの梁川剛氏と本紙写真部のたえ見朱実カメラマンだ。この2人と再び肩を並べ、カズにレンズを向けるとは想像もしなかった。

数奇な出会いに再びジョホールバルでの記憶がよみがえる。歓喜の瞬間やアジジの猿芝居ではなく後半途中交代を告げられたカズさんの姿だ。ベンチに向かい自らの胸を指さし「俺?」とつぶやいたシーンだ。駆け出しカメラマンだった自分のロード・トゥ・フランスはこの地で終了したが、まさかカズさんが最終メンバーから外されるとは思わなかった。イタリア・ミラノから傷心帰国したカズさんを成田空港で撮影しながら、あのシーンがダブって見えたことを思い出す。あれから20年以上の時がたった今も、目の前にいるカズはキングを貫いている奇跡。世界最年長プロサッカー選手として未知なる領域に踏み出す勇姿に触れ、遠い記憶を呼び覚まされた。【下田雄一】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

W杯アジア最終予選・アジア第3代表決定戦 日本対イラン シュートを放つFWカズ(三浦知良)(1997年11月撮影)
W杯アジア最終予選・アジア第3代表決定戦 日本対イラン シュートを放つFWカズ(三浦知良)(1997年11月撮影)
97年W杯アジア地区最終予選 日本対イラン 車椅子に乗ったアジジ(1997年11月撮影)
97年W杯アジア地区最終予選 日本対イラン 車椅子に乗ったアジジ(1997年11月撮影)