ハーフウエーラインを過ぎた所で、右足のスパイクが脱げた。
時計の針は…。1-1の後半31分ごろ。0時を示していない。魔法は解けないが、靴を取りに戻る暇はない。追いかけてくるのは王子様ではなく、Jリーガー。J2横浜FCのFW山下諒也(24)は、右足はソックスのまま、得意のドリブルで加速した。ペナルティーエリア付近までボールを運び、味方に託した。一瞬、スパイクの行方を気にしたが、つながるボールの動向を追った。
舞台はお城の舞踏会ではなく、敵地・大分でのJ2第3節。その直後だった。後半33分。ペナルティーエリア内の右から、ふわりとしたクロスが、山下の元へ飛んできた。胸でトラップ。ほぼ“素足”の右足で落ち着かせた。ペナルティーエリア内の左から、その右足を振り抜いた。ゴール右隅へ、コントロールシュート。弧を描いたボールは、ポストに当たり、ネットに吸い込まれた。
東京Vから完全移籍で、今季から新加入。移籍後初得点が、チームの開幕3連勝を呼び込む逆転弾。それも、スパイクを履かずに。山下は試合後のインタビューで「スパイクはどっかに置いてきちゃったんですけど。ある意味、リラックスして、うてたかなと思います」と笑ってみせた。クラブの公式ツイッターによれば、落としたスパイクはMFイサカ・ゼインが拾ったという。
シンデレラは左足のガラスの靴を残した。横浜FCにやって来た「シンデレラボーイ」は、右足の靴を残した。まだまだ、物語の序章。チームのJ1昇格のため、自身のキャリアを輝かせるため、山下らしい「シンデレラストーリー」を描いていく。【栗田尚樹】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)




