湘南ベルマーレGK秋元陽太(30)は、優勝を決めたピッチ脇で人目もはばからず男泣きした。「泣かないと決めていたんですけど…やっぱり、いろいろな思いがあった」。あふれ出た涙を、左右の手で何度もぬぐった。

 「いろいろな思い」という言葉以上の、紆余(うよ)曲折があった1年だった。昨季、移籍したJ1のFC東京でも守護神として活躍したが、不完全燃焼の思いを抱えJ2に降格した湘南のオファーを受けて今季、復帰。2年連続で主将のFW高山薫(29)を支える副主将を、MF菊地俊介(26)とともに務めた。

 30代に差しかかり、陰に日向にチームを引っ張っていこうと決意を秘めてのスタートだったが、序盤でチームを大きなアクシデントが襲った。高山が3月25日のジェフユナイテッド千葉戦で右ひざを故障。前十字靱帯(じんたい)損傷で全治8カ月と診断されて戦線を離脱。さらに高山の後を受けて主将を務めた菊地まで、5月27日のモンテディオ山形戦後、右太ももの違和感を訴え、9月30後のツエーゲン金沢戦まで4カ月チームを離れた。

 その中、自らも商売道具の手を痛めていた。4月9日の東京ヴェルディ戦の終盤に相手選手と接触し、右手の小指を痛めた。あまりの激痛に、ピッチに倒れ込み苦しんだ。試合後は患部を固定し、「よく分かりません」と表情をゆがめ、多くを語らずに競技場を後にしたが、クラブ関係者は「その後、必要ないとの診断が下ったが、手術の可能性もあった」と明かした。

 秋元も優勝決定後、そのことを認めた。「あの時は、ヤバいなと思いましたけど、手術しないなら、休むより出た方がいいと思って、自分からやりますと言いました。家族とメディカルスタッフのサポートに感謝しかない」と返りつつ、差し出した右手小指は、いまだに変形したままだ。

 それでも、東京V戦後のピッチでは、故障したことはかけらも見せなかった。ゴールエリア内を動き、後方から守備陣に声をかけるコーチングも光り、6月にはJ2のMVPを獲得するなど、39試合で32失点(29日現在)と、リーグ最少失点で優勝を勝ち取った堅守の原動力となった。

 岡山戦では1失点こそしたが、後半37分に右手ワンハンドで決定的なシュートをはじくスーパーセーブでチームを救った。岡山の長澤徹監督も「秋元君が、すばらしかったと思います。シーズンを通して見ていたんですけど(シュートを)ギリギリの際で防ぎ、ボックスディフェンスの部分でメチャクチャ足が動いている。僕らはそこを伸ばさないといけない」と脱帽。今季のJ2を代表するGKという評価を不動のものにした。

 「湘南に戻ってきたからにはチームのためにやる」という思いを前面に押し出したプレーを背中で見せた一方、若手はもちろん、幅広い選手に積極的に声をかけるようになった。馬入練習場の練習でも、先頭に立って走り、時に笑顔を振りまいた。菊地は「年長の陽太君が、薫君と僕が離れたチームを本当に支えてくれた」と感謝した。

 秋元は「湘南で、また優勝して昇格できたことが個人的にはうれしい。来年以降(若手や中堅が)もっと引っ張ってくれれば、より良いチームになる」と来季、再び挑戦するJ1での戦いを見据えた。【村上幸将】