FC町田ゼルビアFW中島裕希(34)が、アビスパ福岡戦で今季11点目となる同点弾を決め、チームを逆転勝利に導いた。

2試合を残してチーム目標の年間6位以上を確定させるとともに、この日首位に立った松本山雅FCを勝ち点1差の3位につけた。中島は「優勝という目標がある。このメンバーで出来るのも、あと2試合。悔いが残らないように戦っていく」と頂点取りを宣言した。

2戦ぶりに先発した中島の動きは、開始早々から切れていた。前半18分、東京五輪世代のMF平戸太貴(21)が左サイドに仕掛けると、中島はゴール前に入り込み、パスを要求。その通りに放り込まれたクロスボールに飛び込んだが、わずかに枠を外した。「流れが良かっただけに、出来れば決めたかった。当て過ぎちゃった…やっちゃった。あれは、決められました」と唇をかんだ。

後半25分に福岡に先制されたが、その悪い流れを自らのゴールで引き戻した。後半28分にFWドリアン・バブンスキーとMFロメロ・フランクが入ると、1分後、フランクからのパスを受けた平戸の右クロスを、中島は元日本代表のMF駒野友一の背後に入り込み、頭でたたき込んだ。「最初、ニアに行こうと思って入ったら、太貴のボールが思ったよりファーに来たので、ステップを踏んでファーに行ったら、DFがかぶってヘディングできました」と笑みを浮かべた。

失点した福岡は、6月30日に2-2で引き分けたホーム戦で1ゴール、1-3で敗れた17年4月8日のホーム戦でハットトリックを決められた中島を警戒していた。DF実藤友紀は「正直、痛かった。しっかりマンツーマンがついていたところで、中島選手はニアに合わせるのがうまいので、ニアに来る意識は、みんな持っていたと思う。コマさん(駒野)が前に入られたくないと、前に入ったところをうまく利用して後ろに入った。駆け引きが上手な選手。去年から苦しめられ、やらせないようにと思ったのにやらせてしまった」と悔やんだ。福岡の対策を根本からへし折った、パーフェクトな一撃だった。

ホームで福岡との上位決戦を制し、優勝争いに割って入ったが、1年前はそれがウソのようにホームで勝てず、16位に低迷した。ホームでは7月15日の水戸ホーリーホック戦から同11月12日のレノファ山口FC戦まで4分け5敗、4カ月も勝てないままシーズンを終えた。そこから、わずか1年で優勝争いをするまでに変貌した要因を聞かれると、中島は明快に答えた。

中島 やっぱり、積み上げてきたものだったり、みんな戦い方も変えずに、じれずに徹底してやって来たのが、勝ち点の積み上げにつながっている。良い時も、悪い時もあったけれど踏ん張って、持ちこたえた。夏場の勝ち点の積み上げも良かった。

「良い時、悪い時」という言葉は、中島のサッカー人生そのものを言い表すかのような一言だ。富山一高から2003年(平15)にJ1鹿島アントラーズに入団したが、高校の先輩の柳沢敦と鈴木隆行という2人の日本代表FWがいた。柳沢がセリエAに挑戦後も、田代有三らが台頭し、出番は限られていた。2006年(平18)に当時J2のベガルタ仙台に期限付き移籍。08年には完全移籍し、翌09年のJ1昇格に貢献もJ1で戦った10年、11年はともにリーグ戦1ゴールと不振に陥り、12年にJ2のモンテディオ山形に移籍。完全移籍した13年には12得点と活躍し、翌14年にJ1昇格に貢献も、J1で戦った15年はわずか2ゴールにとどまり退団。同年末にトライアウトを受け、同じ鹿島出身の相馬直樹監督率いる町田に加入した。

町田では初年度の16年に14得点を挙げ、7位と躍進した原動力となった。翌17年もチームは16位と苦しむ中、中島は11ゴールを決めた。そして今季も、2試合を残して17年のゴール数に並んだ。3季連続で2ケタゴールを挙げた要因について聞かれると「最初から、自分たちの結果で、この環境だったり、人の心を動かすというのを、自分はモチベーションにして町田でやって来た」と振り返った。

その中島の言葉どおり、10月にはIT関連大手のサイバーエージェントが町田の親会社になった。ホームの町田陸上競技場の収容人数は1万328人で、1万5000席以上に設定されている施設基準に満たない上、練習施設も基準に達せず今季はJ1ライセンスが交付されなかった。その大きな“壁”となっていた、天然芝の練習場とクラブハウスの整備は、サイバーエージェントが確約しており、J1ライセンス取得に向け、町田は大きく前進した。中島は「評価してもらって、大きなスポンサーが付いて、これから、いろいろ変わってくると思うんですけど…まずはあと2試合、しっかり戦いたい」と笑みを浮かべた。

トライアウトからはい上がり、加入した町田で3季連続2ケタゴールを決め、エースとしてけん引してきた。一方で、ベテランと呼ばれる年齢になっても、明るくひょうきんなキャラクターでチームの盛り上げ役になる顔も持つ。その中島が「優勝を狙える位置に来て、それ(目標を)優勝に変えただけ。優勝することで、変わってくるものがあるかなぁって、今は思っています」と真面目な顔をして口にした。本気の中島が、有言実行で町田を優勝に導く。【村上幸将】