J1歴代最多得点記録(191点)を持つセレッソ大阪のFW大久保嘉人(39)が、22日に大阪市内のホテルで行われた引退会見で号泣し、約80秒ほど言葉を詰まらせる場面があった。

長い闘病生活の末に、13年5月12日に61歳で他界した父克博さんへの思いを聞かれた時だった。

「まずいっすね。その質問は、また泣いちゃうから。話が進まなくなっちゃう。すごい厳しい父でしたけど…」

そこまで話すと、大粒の涙がほおを伝った。その直後に号泣し、言葉が出てこなくなった。ハンカチで涙をぬぐい、ようやく言葉を絞り出した。

「父がいなければ、サッカー選手にはなれていないです」

「(墓前に)報告したら、『良くやった』と言われると思います」

プロになって稼ぐのは、父子にとっての夢だった。決して裕福ではなく、福岡の小倉で育った幼少時代、小学校を卒業するまで小さな布団に一緒に寝ていたという。

プロになってからは、退場するたびに父から電話があり、こっぴどく叱られた。得点にこだわる姿勢はもちろん、日本のために活躍することは、父が他界する時、病室に残された遺書に残されていた。

「(子供の頃に)お前は声を出さないから試合に使わないと(コーチに)言われたことがあった。自信がないと(グラウンドで)発言ができない。(プロになってからは)自分のために言うのではなく、その人のため、チームのために伝えないといけないと思っていた。言わなくてもいいことも、悪い伝え方をしてしまったこともいっぱいある。でも、おとなしくプレーしていると、力が入らなかった。感情を出して、自分のエネルギーにしていました」

父が他界したちょうど1年後の命日には、14年W杯ブラジル大会のメンバーにサプライズで選出された。天国に旅立ってからというもの、墓前にいい知らせがしたくて得点を目指していたという。

「ゴールを取るために確率を求めていましたし、もともとストライカーではなく中盤の選手。パスの出し手の気持ちも分かる。(パスを出す人の考えを)逆算しながら、常にプレーをしていました。よく『野性的』と言われましたけど、実は考えていました」

残された試合はリーグ戦2試合と、4強入りしている天皇杯の最大4試合。

天国の父へ最後の勇姿を見せる舞台になる。