今季限りで現役を引退する北海道コンサドーレ札幌MF小野伸二(44)は3日の浦和戦で現役ラストマッチを迎えた。

そんな小野が通ったそば店が札幌市内にある。「そば辰本店」だ。西区発寒にあった築60年以上の店舗は、10月28日午後11時ごろに火災が発生。全焼は免れたが、天井が燃え尽くし、営業再開は不可能な状態に。だが奇跡が起こった。店内に飾っていた小野が初来店時に書いたサインは無事だった。店長の金見俊吾さん(45)は「不思議。木造なのですぐ近くは天井が抜けちゃうくらい燃えていた。サインを守るような燃え方だった」と話す。

色紙ではなく、A4サイズのコピー用紙に書かれたサイン。15年11月18日、1人で来店した小野に金見さんは気づいた。「プライベートで来ているし、声をかけたらマズイかなと思ったけど、2度と来ないと思って、恥を忍んで震えながらサインを頼んだら、快く『いいっすよ』と書いてくれた」。色紙がなく、お盆の裏にコピー用紙を乗せて差し出すと、スラスラとペンを走らせていたという。

うれしいことに翌日も来店し、常連になった。お気に入りのメニューは幕の内弁当とあたたかいそば。多い時は週3日訪れた。それから北海道コンサドーレ札幌の選手や家族らも連れて来るようになった。小野が一緒に来店した後輩に「サインを書いて飾ってもらいな」と促してくれ、どんどん増えた。そのため店内に色紙を常に用意するようにした。

ずらっと並ぶサイン色紙の中で、小野のサインだけはずっとラミネート加工したコピー用紙のまま。「これが始まりだったので、そのままで」と金見さん。小野の行きつけとして人気を呼び、サポーターからは“聖地化”された。

思い出いっぱいの店舗はなくなってしまった。トイレの天井裏に設置されていた換気扇のモーターの経年劣化によるショートが発火原因だった。営業時間外だったため、人的被害はなく、延焼もなかった。

現在は移転作業中。小野以外のサインは、数枚は消火活動によって水浸しになり失ってしまったが、残った“1枚目”のサインを見つめながら、金見さんは「いつも帰り際に『どうも』って言ってくれるし、人柄が本当に良くて、ここまでひかれた人は初めて。従業員もみんな小野さんにメロメロだった。引退は寂しいけど、ずっと札幌に携わってくれたら」と願っていた。【保坂果那】