日本唯一2度のFIFAワールドカップ(W杯)指揮で、初出場と自国外で初の16強を知るサッカー元日本代表監督、岡田武史氏(66=日本協会副会長、J3今治会長)がスペイン戦へ「勝てば真の成長を遂げた証明になる」と期待した。

22年カタール大会も「日刊スポーツ特別評論家」としてコスタリカ戦を総括。背水スペイン戦への切り替えとともに、引き分けOKの「したたかさ」を国として身につける必要性も説いた。【取材・構成=木下淳】

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大会前から話していた通りになってしまった。「ドイツに勝つチャンスは十分あるが、コスタリカに負ける可能性もある」。客観的に見て、ドイツには勝ったが、まだブロックを組んだ相手を崩し、勝ち切ることは、日本には簡単ではないということ。ただ状況は同じだよ。反対の1勝1敗も考えられたし、どのみちスペインに勝たないといけない展開も予想できたから。

18大会連続20回目の出場と優勝4回を誇るドイツでも、日本に逆転負けする経験を初めて味わった。日本がコスタリカ相手に痛い目を見る試練は、それ以上にあり得た。過去3勝1分けの無敗でも、試合中に被決定機1度でも。こういう経験を積んでいかないといけないんだろう、国として。

自身2度目の10年南アフリカ大会も、初戦でカメルーンに勝って2戦目でオランダに敗れた。メディアや評論家から「勝てるわけない。2戦目は捨てて3戦目に懸けろ」と言われたが、引きずると思って全力でいった。だから「負けたけどオランダと渡り合えた」となり、デンマークに快勝で1次リーグを突破できた。

当時と状況は異なるけれど、森保も大幅なメンバーチェンジをせずに、この試合に臨むと思っていた。前回18年ロシア大会も初戦でコロンビアを破った後、セネガル戦は先発変更ゼロで勝ち点1。第3戦でポーランドに負けても16強に入れた。ただ、世界で最も日本の情報を持つ森保が判断したこと。(酒井)宏樹が負傷し、伊東純也も前戦でかなり守備に走らされたので疲弊していたのだろう。やむを得ない。

1トップだけ予想と違った。相手が下がって固めてくる想定で高さのある上田綺世を選んだのだろうが、W杯初先発で100%の力を出せる選手は少ない。それが今回は5人。経験とキッカー不足を露呈したが、リスクを冒した挑戦となった。自分なら、相手の3バックにプレスをかけるため鎌田を1トップにするなりして4-1-2-3に変更したかもしれない。インサイドハーフ2枚にすれば、はまるケースが多いから。

とはいえ、戦術は結果論だ。惜しまれるのは0-0で問題なかったこと。大会前に戻るが、W杯アジア最終予選の初戦でオマーンに敗れた。あの時、日本の選手は欧州から試合の2、3日前に帰国して、相手は1カ月も合宿して調整してきた。アジアで、ホームで「絶対に勝て」だけど、あの状況でも「引き分けでいい」くらいの、したたかさが必要だったと今は思える。

選手には世界で勝つためマリーシア(ずる賢さ)を求めながら、チームに対しては協会も国民も「正々堂々やって勝て」の雰囲気。トータルで考えればドローでOKなのに。ましてや今回はW杯だ。簡単に守備網を破れず、カウンターのリスクも負う展開なら、途中から「勝ち点1でいい」と割り切って良かったかもしれない。コスタリカを「絶対に勝つべき相手」と位置付け、悲壮感まで漂わせたことがおかしかった。ロシア大会のポーランド戦で「0-1でOK」だったように、この経験も国として積んで覚えていくしかない。

しかし、済んだことを悔やんでも先のことを心配しても仕方ない。スペイン戦でやれることは、アグレッシブに前線からプレッシャーをかけ、ボールを奪ったらサイドのスピードを生かして速攻を仕掛けていく、突破していくこと。相手の陣形は4-1-2-3なので、日本も中盤を合わせて3枚にしないと(選手の)間、間を突かれることへの対策は立てたいところだ。

大会が始まって急に4バックか3バックかの議論が盛んになった感があるが、要は、どちらが相手に対してプレスがかかるか、そして攻撃の時に中に入っていけるか、が大事。この組は3バックがはまっているだけで、いかにプレッシャーをかけて最後まで自由にさせないか、が鍵を握る。そこをしっかりやらないと0-7で惨敗したコスタリカの二の舞いになる。あとは攻撃。「とにかく三笘に渡しとけ」ではなく、いい距離で彼が受けられる状況をつくることが必要だ。

「ドイツに勝つチャンスは十分あるが、コスタリカに負ける可能性もある」と言ったが、スペインは…両方ある(笑い)。ただ、やはりE組はドイツが一番強い。ガビとペドリの若手コンビは当然上手だけど、やはり08年から欧州選手権、W杯、欧州選手権を“3連覇”したころに比べれば落ちる。日本が勝つ可能性の方があると信じているよ。

スペインも負ければ1次リーグ敗退危機だ。ドイツが1点リードでギュンドアンを下げたようなことはしてこないはずだし、W杯で最高の経験ができる。そして勝つことができれば「日本が真の成長を遂げた、本当の力がついた」証明になる。あとは「長友の『ブラボー』に期待」と書いておいてくれ。とにかく今できることをやる以外にない。「やるしかねえんだから、やりゃあいいんだよ」の言葉で送り出したい。(日本代表監督=98年フランス大会、10年南アフリカ大会)