日本(FIFAランキング24位)が強豪スペイン(同7位)を2-1の逆転で破り、2大会連続の決勝トーナメント進出を決めた。ドイツ戦同様、森保一監督(54)の采配が的中。後半から投入したMF堂安律が同3分に同点弾、その3分後、MF三笘薫がゴールラインぎりぎりの「神アシスト」で田中碧の決勝点を呼び込んだ。森保監督自身が経験した「ドーハの悲劇」を自らの力で「歓喜」に変えた。日本は初の8強入りを懸け、5日午後6時(日本時間6日午前0時)、F組2位、前回準優勝のクロアチア(同12位)と対戦する。

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目頭が熱くなるのをこらえ、森保監督が仁王立ちしていた。長い7分間のロスタイムが、残り1分にさしかかる。心の奥底にしまっていた悪夢の記憶が、脳裏にわいてきた。2-1で後半ロスタイムに突入。追いつかれれば敗退。29年前、選手として経験したドーハの悲劇と同じ状況だった。「ドーハの記憶は、出てきました」。日本代表はあのときと同じく、攻め込まれていたが、選手はたくましかった。

後手に回ってクロスを上げられた29年前とは違う。守備陣形を整備し、スペースを消し、スペインの猛攻にひるまなかった。「時代は変わったんだな、選手は新しい時代のプレーをしてくれているなと、残り30秒くらいで思った」。試合終了のホイッスルが響くと、両拳を力強く握った。悩みに悩んで選んだ26人とともに、ドーハに新たな歴史を刻んだ。

勝負師の采配がドイツ戦に続く金星をたぐり寄せた。前半に先制を許したが、それも想定内。ハーフタイムには「よく我慢した」と選手の背中を押した。「攻撃に転じる」と指示を出し、堂安と三笘の攻撃的な交代カードを切った。すると、防戦一方だったチームが生まれ変わる。

後半3分に堂安がドイツ戦に続く、今大会2点目となる同点弾。その3分後にはゴールライン際ギリギリのボールを三笘が残して折り返し、田中の逆転弾を演出する。まさに神がかった采配だった。

軸の4バックではなく、3バックで挑んだ。3バックは選手からの提案もあったが、自らの中にイメージもあった。21年10月の欧州ネーションズリーグ決勝。前回W杯覇者フランスがスペインを破った時が3バックだった。時にウイングバックが下がり、5バックにもなる。堅守速攻で活路を見いだす作戦。懸けでもあったが「前日の練習ではチームとして確認し、選手も実践してくれた」とチームの力を信じて、試合に臨んだ。

死の組と呼ばれたE組で、優勝経験のあるドイツ、スペインを破って首位通過。過去3度の挑戦もすべて敗退した決勝トーナメント1回戦では、前回大会準優勝のクロアチアと戦う。ドイツ、スペインとの試合を「サッカーの神様からのプレゼント」と語った森保監督が自らの手腕でもう1つ“贈り物”を手にした。あと1勝でベスト8。並みいる強豪を押しのけた先に、新しい景色が待っている。【岡崎悠利】