再び衝撃的なタイムを刻んだ。陸上男子短距離で先月11日に日本人2人目の100メートル9秒台(9秒99)を出したサニブラウン・ハキーム(20=フロリダ大)が、追い風2・4メートルの参考記録ながら9秒96をマークした。

公認される追い風2・0メートルだった場合でも9秒台と試算される記録で、しかもスタートで出遅れたものだった。3組2着で進出した決勝(日本時間8日午前10時22分予定)では、全米大学王者、日本人初となる2度目の9秒台に挑む。

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タイムは日本記録を0秒02上回った。追い風2・0メートルを超える参考記録とはいえ、公認となるラインから、大幅にかけ離れる助力があったわけではない。ただ、レース後のサニブラウンは満足感などなく、それどころか、口から出たのは反省の弁だった。

「スタートが全然出られなかったのが、もったいないかった。結構、遅れたと思います」

日本陸連が公表する資料で試算すると、追い風が2・4メートルから2・0メートルになった場合、タイムは約0・03落ちるとされる。それに当てはめれば、9秒99に相当すると言ってもいいから、大きな価値を含む。しかも出遅れだ。会心の走りではないだけに、末恐ろしい可能性が詰まっていた。

中盤からは大きなストライドを生かし、挽回した。中盤でトップに立つ。最後は隣のレーンから猛追してきた自己記録9秒94のディバイン・オドゥドゥル(22=ナイジェリア)との競り合い。わずかに遅れて2着も、その差は0秒004秒。「自分の走りさえすれば、ひけを取らないと思っていた」と振り返った。その1時間後には200メートルも20秒44(追い風0・6メートル)で決勝進出を決めた。

舞台が大きくなるほど、力を発揮するタイプだ。2年前もそうだった。日本選手権前までシーズン最高は10秒22と不調な感が漂っていたが、日本選手権では見事にスイッチを入れた。予選から10秒06。「注目されない中で速く走ったらおもしろい」と笑い、見事に100メートル、200メートルの2冠を達成。同年の世界選手権予選でも向かい風0・6メートルと条件に恵まれない中、10秒05をマーク。200メートルでも史上最年少の18歳157日で決勝に進出する快挙を果たした。大舞台でこそ力を発揮する強い男だ。

世界から才能が集う全米の大学王者決定戦は中1日。「しっかりしたマインドセットをし、1本1本しっかりいけるように集中していければいい」。一気にギアが入る大一番、驚異の記録が出そうな気配が漂う。