陸上男子100メートルで9秒95の日本新記録を樹立した山県亮太(28=セイコー)はレースから一夜明けた7日、粋な計らいを受けた。

鳥取空港から全日空で帰京。その搭乗する航空機が羽田空港に着陸し、駐機場へ進んでいる時だった。機内にアナウンスが流れた。まずは客室乗務員の女性から。

鳥取・ヤマタスポーツパーク陸上競技場での布勢スプリントに触れ、「男子100メートル決勝。9秒95の日本新記録をマークした山県選手。おめでとうございます。コロナ禍の暗く、不安な日々の中、明るく、胸躍るニュースを届けてくださり、ありがとうございます。これからも山県選手のご活躍をお祈り申し上げます」

自然と拍手がわき、その後、機長の言葉も続いた。

「けがに苦しんでいたと報道でうかがっております。さらなる今後の活躍を期待しております。中学時代の100メートル自己ベスト12秒00よりお祝いを申し上げます。重ねまして、皆様ご搭乗、誠にありがとうございます」

心温まるアナウンスに、機内は笑顔にあふれて、和やかな空気に包まれた。

朝は鳥取砂丘にも足を運んだ山県は、飛行機を降りて、預けていた荷物を空港で待っていた。「少し恥ずかしかったですけど、本当にうれしかったです。こんな事なかなかないので」。思わぬサプライズな祝福に照れながら、うれしそうだった。

自己ベストを0秒05塗り替え、自身初の「10秒の壁」突破となる9秒95。次に見据える悲願はアジア記録(9秒91)になる。「アジア記録を蘇炳添選手が持っている。それに追いつけるように頑張りたい」。10秒00の銅メダルだった18年ジャカルタ・アジア大会で、9秒92を出して金メダルだったのが中国の蘇だ。

長年にわたって、ともに男子短距離界をけん引してきた桐生からは「盛り上げますね」とラインが届き、「桐生が決勝を棄権したから代わりに盛り上げておいたよ」と返したという。17年9月に桐生が日本人初の9秒台を出した時は「おめでとう」と祝福のメッセージを送っていた。今度は立場が逆となり、「感慨深いですね」と喜びに浸った。