両脚義足の陸上スプリンターで、昨年のロンドン五輪にも出場した南アフリカのオスカー・ピストリウス容疑者(26)が14日、恋人の女性モデル、リーバ・スティンカンプさん(30)を射殺した殺人の疑いで逮捕された。地元メディアによると、同容疑者は首都プレトリアの自宅をサプライズで訪れた恋人を不審者と思い込んで射殺したという。同国では人気者同士のカップルとして知られ、“バレンタインデーの悲劇”として報じられている。

 両手をポケットに突っ込み、グレーのフードを深めにかぶったピストリウス容疑者が自宅から出てきた。手錠はされていなかった。足どりに注意をはらうように、すぐそばを捜査員が並んでゆっくりと歩いた。

 同容疑者は無言で警察の車両に乗り込み、豪邸を後にした。誤射から最愛の彼女の命を奪った疑いで地元警察に逮捕された。

 事件は14日未明、首都プレトリアの高級住宅街にある同容疑者の自宅で発生した。当局関係者によると、女性は頭部と腕などを4発撃たれていたという。女性は玄関のすぐそばで横たわっていて、救急隊が必死の救命活動をしたが、息を吹き返すことはなかった。銃弾を受けた直後に即死していたものとみられる。

 現場からは同容疑者が所持していた口径9ミリの拳銃が見つかった。地元メディアによると、同容疑者は14日午前4時半ごろに「侵入者と間違えて女性を撃ってしまった」などと警察に通報していたという。

 この日はバレンタインデーで、スティンカンプさんは、内緒で“未明のサプライズ訪問”を計画した可能性もあるとみて捜査をしている。警察が駆けつけたとき、大きなショックを受けたためか、射殺した本人はうなだれていた。ほとんど何もしゃべれない状態だったという。ただ、警察報道官は、2人の間にトラブルがあった可能性も含めて調査していることを明かした。

 同容疑者とスティンカンプさんの交際は、昨年11月に発覚した。スティンカンプさんは、南アフリカ・ポートエリザベス生まれ。ブロンドヘアのグラマラスな美人で、南アフリカのトヨタのCMにも出演するなど人気モデルとして知名度が高かった。現地では有名人同士の交際として、恋の行方が注目されていた。地元メディアは、大物カップルの間で起きた事件を“バレンタインデーの悲劇”として報じている。

 ◆オスカー・ピストリウス

 1986年11月22日、南アフリカ・ヨハネスブルク生まれ。先天性の身体障害によりひ骨が無い状態で誕生し、生後11カ月で両ひざから下を切断。高校時代にラグビーでひざ部分を負傷し、04年1月に個人競技の陸上に転向。同年9月のアテネパラリンピックの100メートルで銅、200メートルで金メダルを獲得。08年北京パラリンピックでは100メートル、200メートル、400メートルすべてを制覇。昨年のロンドン五輪では義足選手では初となる400メートルと1600メートルリレーに出場した。自己ベストは100メートルが10秒91、200メートルは21秒3。