<陸上:第93回関東学生陸上競技対校選手権大会>◇第2日◇17日◇埼玉・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場

 近いゾ、9秒台!

 男子1部100メートル決勝で、日本人初の9秒台が期待される桐生祥秀(18=東洋大1年)が、追い風1・6メートルの好条件下、10秒05のセカンドベストを出した。10秒25で通過した準決勝後、周囲を威圧する集中力で臨み、アジアジュニア新記録となる今季世界7位のタイムで大学初タイトルを獲得した。6月の日本選手権(福島)に、偉業達成の期待がかかる。

 雄たけびとともに、珍しく桐生が2度のガッツポーズを出した。最初は優勝を確信した時。視界に速報タイマーの10秒0台をとらえると再度、拳を握った。毎秒4・5歩のデータが残るピッチにも劣らぬほど、舌の回転も速かった。

 桐生

 織田記念はタイムが出るといわれている。その織田のトラックじゃない所で同じ0台、セカンドベストが出せた。やっと2回出せて、うれしい。優勝しか狙ってなかったし、国内の学生には負けたくない。

 昨年4月の織田記念国際で10秒01をマーク。記録が出やすい高速トラックで出したことに多少の不満があった。初めての会場で、タイトルのかかった大会で出したことに価値を求めた。

 午前9時半の準決勝終了後。土江コーチは尋常ならぬ気配を感じた。「近寄りがたい空気、漏れ出てくるオーラ。私が桐生を見始めて約1年、これまで見たことがない集中力を出していた」と言う。前日は補助練習場に構えた東洋大のテントにファンが集中。写真をせがまれるなどし急きょ、撤収する一幕もあったが、少しのことでは動揺しない度胸が今の桐生にはある。

 集中力を生んだのは、屈辱からの原点回帰だった。11日のセイコーゴールデンGPで完敗。その後は高校時代の基本に戻った。体の中心線をしっかり動かし、蹴り上げて前に出した足に重心を乗せる動作。坂道を使ったシャトルランやミニハードルで、高校時代の走りをイメージした。

 都会の水に慣れようと、18歳は必死だ。埼玉・川越の合宿所から約1時間半の通学。私鉄、JR、都営地下鉄と乗り継ぐが最後の地下鉄2駅分は徒歩で通う。順応性の速さも、そんな私生活の一端に現れる。圧倒されがちな応援団の大合唱も「めっちゃ楽しいです」と自分の世界に変えた。

 桐生

 9秒台を出しても2位なら負けになる。負けられないと思えば集中力も上がる。今日も優勝を狙ってタイムがついてきた。9秒台は分かりません。あと3年間、勝って4連覇したいです。

 吉岡隆徳、飯島秀雄の名スプリンターに続く史上3人目の大会4連覇への挑戦が始まった。数字を忘れ勝つことに執着した時、自然と9秒台は出るはずだ。【渡辺佳彦】