<横浜国際女子マラソン>◇16日◇山下公園発着(42・195キロ)

 日本女子マラソン界に、待望の超新星が現れた。初マラソンの岩出玲亜(19=ノーリツ)が35キロ過ぎまで粘り、2時間27分21秒の3位でフィニッシュ。日本女子マラソンの10代最高記録を樹立した。1回の練習で最長30キロまでしか走らなかった社会人2年生が、一気に16年リオデジャネイロ五輪の星に躍り出た。

 37キロ付近で4人の先頭集団から脱落。トレードマークの目力が輝きを失いかけた、その時だ。岩出の胸に希望の光が差し込む。失速したロティチが迫る。「メダル、行ける」。さらに斜め前の時計車がともすタイムに「もしかしたら27分台だ」と心が躍る。20キロで両足内側にできたマメの痛みなど忘れた。「ドンドン目標が上がって初マラソンは楽しかったです」。幼少の頃、ボートレーサーにする夢も持っていた父輝重さんに出迎えられ、笑みをはじけさせた。

 怖いもの知らずだ。未知の距離に後方待機も許される序盤。だが設定より速いペースメーカーに食らいついた。「集団のままの方が自分の走りが出来ると思って。後半も余力をもって走れると思った」。森岡監督が「最長30キロと言われますが、1日で30キロを2回とか1日置きに30キロとか。30キロの数なら日本一」というスタミナにも自信があった。

 毎年3月、ノーリツでは全選手が年間スケジュールを立て、監督と面談する。11月に横浜国際を入れた岩出に森岡監督は「駅伝もあるし無理だろう」と伝えた。だが「頑として譲らなかったんです。ただ者じゃない。何より眼相(がんそう)がいい」と同監督。6月の日本選手権1万メートルで最下位に終わり落ち込みかけた後、岩出は同監督にメールで思いを伝えた。「私の世代は東京五輪を目指してますが私は目の前の、初マラソンをやりたいんです。監督を信じて頑張ります」。

 苦しさという先入観もなく、陸上を始めた中学からマラソンを志望。こだわった「10代のうちに成し遂げたい」という夢を「おまけのようなもの」という10代の日本最高で達成した。出身が同じ三重の五輪女王・野口みずきを目標に「殻が破れ、より世界が近くなったような感じ」と言ってのけた。6年後の東京まで待つには長すぎる。リオの輝く太陽が新星を待っている。【渡辺佳彦】

 ◆岩出玲亜(いわで・れいあ)1994年(平6)12月8日、三重県津市生まれ。津市立一志中3年時に全国中学駅伝で2区を走り区間7位でチームも7位。愛知・豊川高3年時の全国高校駅伝で1区を走り5位でチームは準優勝。社会人1年目の昨年12月に初挑戦のハーフマラソンで1時間9分45秒の日本ジュニア記録を樹立。家族は父輝重さん(45)母綾子(りょうこ)さん(40)妹つばめさん。154センチ、40キロ。

 ◆日本女子の10代マラソン

 持論から10代で走らす小出(義雄佐倉アスリート倶楽部代表)門下生はいるが、最近は珍しい。従来の最高記録は、97年3月の名古屋国際女子で市橋有里(当時19歳)が出した2時間29分50秒(4位)。00年長野マラソンでは堀江知佳(当時積水化学)が2時間29分12秒で走ったが、これは下り坂コースだった。増田明美は18歳の82年に初マラソンで2時間36分34秒の当時日本最高を樹立。19歳で2時間30分30秒(自己ベスト)まで伸ばした。

 ◆代表選考

 今大会は来夏の北京世界選手権の代表選考を兼ねて開催。同大会の代表枠は3人。8月の北海道マラソン優勝者(野尻あずさ)と、横浜、来年1月の大阪国際、3月の名古屋ウィメンズの日本人上位3人が選考対象。また日本陸連が設定した2時間22分30秒を突破すれば優先的に選出される。暑さへの適応力があると判断されれば前述の3大会の順位に関係なくナショナルチームから選出される可能性もある。