9月20日、ラグビーワールドカップ2019が日本で開幕した。2015年大会でベスト8を逃したその日から、選手を始めとする関係者たちはこの日を待ち望んでいた。

「4年」。この数字はとんでもなく不思議な時間。変わらない気持ちもあれば、変わるものもある。選手目線でいえば、フィジカル面の変化は必ずあるし、競技への向き合い方も変わるだろう。その対応は一筋縄ではいかない。

特に、チーム競技。しかも、ラグビーだ。決して1人では戦えないこの競技。長い旅を経て、今を迎えている。

開幕戦で日本は30-10でロシアに勝った。やや選手たちの緊張が見て取れたが、緊張しない方がおかしい。

私も競泳選手時代は、予選、準決勝、決勝と駒を進めていく中で、一番緊張したのが予選だった。練習と試合は、感覚が異なる。いくら調子がいいと思っても、本番で不安になるのは当たり前だ。

しかもワールドカップ。世界最高峰のフィールドに立つ感覚は、頑張ってきた選手へのご褒美だ。自身に誇りを持てる瞬間かもしれない。そのことを強烈に味わえるのは、まさに初戦だろう。


ロシア戦を見ていて、「少し心配」と思ったファンもいたと思う。ただスポーツライターの永田洋光さんが、ある雑誌で語っていた。「選手とコーチは勝利を確信していいけど、ファンは全敗を予想して見る方がいい」と。なぜかというと、勝利をより喜べるからだと。

第2戦のアイルランド戦。私は心の中で「絶対勝てる」「いつもの戦い方と違う」そんな風に見ていた。意外と負けを予想してみるのは厳しかったわけだが、4年前とは異なるJAPAN WAYを見ることができた。チャレンジであることは変わりないが、この瞬間を1分1秒も無駄にしていないことが、見ているだけ感じられた。

結果は19-12で勝利。そしてその後のサモア戦、絶対負けられない試合は最後の最後、松島幸太朗選手のトライでボーナスポイントも取り、38-19で勝利。あの日本チームの集中力には、彼らの努力と、開催国というエナジーも感じる。


私は、よく子供たちに話すことがある。

例えばもう引退してしまったが、ウサイン・ボルト選手がロンドン・オリンピックの100メートル決勝でスタートラインに立った時、「金メダルが見たい。世界記録が見たい。頑張れ!」と多くのファンが思ったはず。「負けろ!」なんて思っている人は少ない。いないかもしれない。なぜなのか?ということを話す。

応援している人が多ければ多いほど、選手の背中を最後は押してくれるんだ。だから、応援される人になろうと。

まさしく今、ラグビー日本代表は多くのファンに応援されている。平均視聴率もサモア戦では32・8%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と今年のスポーツ中継1位だった。


日本と戦った後、アイルランドの選手たちが日本選手のために花道を作ったこと。南アフリカとカナダの試合中、ラインアウトのボールを持ってきてくれたボールボーイに選手が「Thank you」と言ったこと。試合後に両キャプテンがファンサービスを一緒にする姿。日本に敬意を払う、選手たちの立ち居振る舞い。勝利という、喜び以外にもたくさんの気づきがある今回のラグビーワールドカップだ。

これを、海外のSNSやニュースでも「This is RUGBY」と書いていた。まさにラグビースピリットだ。


いよいよ、予選プールラストの試合、10月13日に日本はスコットランドと対戦する。SO田村優選手もサモア戦の勝利後、「この1週間を最高の準備をする1週間にする」と言っている。

ワールドカップは長期戦だ。選手のコンディションは当たり前に仕上がっていると思いがちだが、疲労との戦いでもある。「試合の当日は、そこまで痛くない体も、次の日になるとだるく重くなり疲労を感じる」と、2015年大会日本代表の畠山健介さんが話していた。

選手たちの調整力やメンタル面にもフォーカスしながら、「This is RUGBY」というシーンをどれだけ見ることができるか、楽しみだ。

ファンとしても、同じアスリートだった身としても、心からラグビーワールドカップを応援している。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)