いよいよ聖火リレーが3月25日から始まる。

2020年3月12日にギリシャ古代オリンピア市へラの神殿で採火された。日本側への引き継ぎ式を経て、3月20日、日本に到着した。それから約1年。福島県のJヴィレッジからスタートし、全国47都道府県をめぐる。

聖火リレーが始まるということは「いよいよオリンピックが始まる。戦争をやめよう」と呼びかけること。それは古代オリンピックから継承されているものだ。つまり、平和・団結・友愛というオリンピックの理想を体現し、開催国全土にオリンピックを広め、そしてオリンピックへの期待と関心を呼び起こす役割を担っている。

東京2020聖火リレーのコンセプトは“Hope Lights Our Way”「希望の道を、つなごう。」だ。古代ギリシャでは、火を1年中ともしていた。その火の中にはヘスティアという女神がいて、女神がいることで家は繁栄し、平和や幸福が約束されると考えられていたそうだ。この背景を思うと、アジアの日本に聖火がともされ、121日間かけて全国を回ることの意味も理解できる。

私も現役時代、合宿地に聖火リレーが来たことを思い出す。「いよいよだな」。心の中でいろんな覚悟を決めたことを、今もはっきりと覚えている。


もう1つ、伝えておきたいことがある。パラリンピックの聖火だ。

パラリンピックの聖火リレーはオリンピックとパラリンピックの移行期間である8月12日~24日に行われる。まず各都道府県を回り、17日から競技開催都市を回る。20日夜には開催都市である東京都での集火式が行われ、その後、開会式まで都内をリレーする。

オリンピックとは異なり、パラリンピックの聖火は、全国各地で独自の方法で採火される。IPC(国際パラリンピック委員会)の理念は、「聖火はみんなのものであり、パラリンピックを応援するすべての人の熱意が集まることで、聖火を生み出す」。

つまり、火が生まれたところはさまざまでも、それが1つに統合されることが、多様性の象徴とされているのだ。大会発祥の地であるイギリスのストーク・マンデビルにて聖火フェスティバルも実施される。

このパラリンピック聖火リレーのコンセプトは“Share Your Light”「あなたは、きっと、誰かの光だ。」新たな出会いから生まれる光を集めて、みんなが調和し、生かしあう社会を照らしだそう、とされている。

パラリンピックのエンブレムは「スリーアギトス」と呼ばれていて、「アギト」にはラテン語で「私は動く」という意味がある。パラリンピックの価値は勇気・強い意志・インスピレーション・公平とされていて、エンブレムからもパラリンピックの精神はうかがえる。パラリンピックの父、ルードウィッヒ・グッドマン博士の「失ったものを数えるな。残された機能を最大限に活かせ」という言葉もある。

アスリートがベストを尽くし、パフォーマンスする姿はオリンピックと同じスポーツの祭典であると言えるが、その背景を見ると、それぞれに異なった価値があると私は感じる。

オリンピックが平和の祭典と言われるなら、日本パラリンピック委員会の会長であり、自身も殿堂入りした競泳のレジェンドの河合純一さんが「パラリンピックは人間の可能性の祭典だ」といつも言う。まさにそうだと思う。

可能性はどこにあるのか、何なのか。それを今考えてみるときなのかもしれない。私はどう動くのか。1人ひとりが考えるきっかけになりうるだろう、パラリンピックの可能性は果てしない。(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)