「過剰さ」は人を引きつけるか、嫌悪させるかだと思うが、スポーツにおけるそれは、立ち会えた取材者の醍醐味(だいごみ)を感じさせる瞬間だったりもする。

「ないです!」。質問に対する即答は、少し強弁だった。聞かれたのは「疲れはなかったのか?」。食い気味にきっぱりと否定した。10月9日、橋本大輝(18=市船橋高)は体操の世界選手権の団体決勝を終えた直後だった。

3種目の鉄棒を終えた時、堂々と会場をあおっていたパフォーマンスやガッツポーズがなかった。7日の予選では4種目に登場し、全てでチーム最高得点を稼ぎ、鮮烈な世界デビューを飾っていた。初代表、慣れない環境で肉体的にも精神的にもすりへらす毎日は、国内大会以上ではなかったか。だから、鉄棒を終えてうつむくように視線を落とした姿が気になった。だが、本人は認めなかった。その言葉の強さは、春の国内選考会から取材してきて最大のトーンだった。そして、それは突然にとても過剰で、引きつけられた。

初々しさは初代表の特権で、それが言い訳に作用する場合もある。結果が残せなかった時に「最初だから」と免罪されるのは仕方がない。

ただ、橋本はその安全地帯に安住するどころか、毅然(きぜん)と代表の責任感を背負っていた。だから人一倍に過剰な反応をしたと判然としたのは大会最終日、13日の種目別決勝後半で鉄棒の演技を終えて、「大会で何が一番印象に残ったか?」と聞かれた時だった。

「団体決勝のゆかです。みんなが耐えて耐えてつないできてくれたのを、自分があのミスで台なしにしてしまったという思いでした。全部(の着地で)立ちたいという気持ちがあったのですが、着地を狙いにいって止めることが、そこで出来なかったのが一番悔しいです」。

種目別決勝に進出した全6種目の選手の中で18歳は最年少。10代の選手は橋本含めてわずか2人。その事実だけでも肯定要素満載で、取材側としては好演技について言及すると予想していた。これが裏切られた。口にしたのは失敗体験だった。主将の神本雄也は「彼のことは高校生とは思っていなかった」と大会総括で述べていたが、その通り、橋本本人が高校生という立場に逃げ込んでいなかった。それが床運動での失敗をいの一番に口にする態度に透けた。

中学時代には全国大会の直前練習中に床から大幅にはみ出して足を骨折しながら、鉄棒だけに強行出場した経験もある。柔和な表情、物腰とは反対に、橋本には決然とした覚悟、意志が備わっている。その事実こそが、世界選手権を取材し終えて、最も日本男子にとってポジティブな要素だったのではと考えている。

「今回の世界選手権では、来年に向けてこれから自分が何をすべきか、それが的確に見えてきました。団体で負けて、自分が来年に代表に入って勝ちたいという気持ちが強くなったので、来年は五輪の選考会でトップを狙うつもりでがんばりたいです」。

トップ-。大会の最後に誓ったその言葉は、もう過剰には聞こえなかった。【体操担当=阿部健吾】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)