9月に入った。7月から順に始まった東京五輪・パラリンピック。普段なじみのない競技を知り、楽しむ機会がそこにある。競技のルールを知り、選手の人柄に親しみを持ち、時には「1度、実際にやってみたいな」と思うこともある。

ふいに1つのハッシュタグを思い出した。

「#他競技から学ぼう」

決して爆発的とはいえないが、SNS上でにわかに使われている。それは2021年2月にさかのぼる。

ちょうど「Clubhouse(クラブハウス)」という、音声アプリが流行していた時期だった。「#他競技から学ぼう」と書かれた部屋には、競技はもちろん、著名人、一般人を問わず、多くの人が集まっていた。アプリを開けば気軽にラジオ感覚で視聴でき、立場を問わず発言できる。その手軽さも後押しした。

そこにはゲストが招かれ、5月は今回の東京パラリンピック競泳男子で金、銀、銅メダルをそろえた鈴木孝幸(34=ゴールドウイン)も参加した。「#他競技から学ぼう」の部屋に顔を出す、00年シドニー五輪競泳女子代表の萩原智子さん(41)が招待したという。

競技の枠を超えた取り組みには、仕掛け人がいる。

プロラグビーコーチとして19年度全国高校大会(花園)準優勝の御所実(奈良)などを指導する二ノ丸友幸氏(42)。かつてトップリーグで活躍し、現役引退後はクボタの法務部、広告宣伝部などに在籍した。約10年前から選手へのコーチングだけでなく、指導者セミナー、人材育成につなげる講義などを行ってきた。

「自競技の常識が他競技では通用しない。逆に競技を問わず、問題点は共通していたりもするんです。研修の場で、僕自身の知識がすごく広まった。これを広げたいと思っていました」

「クラブハウス」の普及は、きっかけになった。自らを「代表プロモーター」と位置づけるが、法人化もせず、理事もいない。入会手続きなど、敷居が高くなるものは排除した。ゴールは「各方面で浸透し、活動が不要になること」。スポーツに携わる多くの人たちが情報交換し、学び続ける場を作りたい一心だった。

取り組み開始から半年ほどが過ぎた。二ノ丸氏は感触を苦笑いして明かした。

「どちらかというと競技問わず共通する『問題点』の方が浮き彫りになります。指導の仕方であったり、勝利至上主義の問題点。日本のスポーツ界の問題は、共通している気がします」

それも、この取り組みをやってみなければ分からない「学び」の1つだろう。

交流は「クラブハウス」にとどまらなくなった。オンラインセミナーや、対面での研修会…。「ツイッター」での情報共有もある。

東京五輪・パラリンピックで抱く他競技への興味から、さらに1歩を踏み出すフィールドが「#他競技から学ぼう」にあるかもしれない。二ノ丸氏は自らが知らない場での輪の広がりも「もちろん」と歓迎する。

「選手だけでなく、指導者、保護者も学び続けることで、選手も含めて、みんなが幸せになる。それが、スポーツの価値を高めることになると思っています」

その願いは単純明快だ。【松本航】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは西日本の五輪競技やラグビーを中心に取材。18年ピョンチャン(平昌)五輪ではフィギュアスケートとショートトラックを担当。19年はラグビーW杯日本大会、21年の東京五輪は札幌開催だったマラソンや競歩などを取材。

「#他競技から学ぼう」のロゴマーク(Work Life Brand提供)
「#他競技から学ぼう」のロゴマーク(Work Life Brand提供)