<フィギュアスケート:世界選手権>◇27日◇さいたまスーパーアリーナ

 4年ぶり3度目の優勝を狙う浅田真央(23=中京大)が、世界歴代最高点で首位発進を決めた。トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させる完璧な演技で78・66点。4年間以上も破られなかった10年バンクーバー五輪の金妍児(韓国)の78・50点を上回った。2月のソチ五輪では全3つのジャンプに失敗して16位と低迷したSP。母国開催の世界一決定戦に同じ衣装で臨み、その“雪辱”を果たした。29日のフリーでは、欧米人以外で最多となる3勝目に挑む。

 「ソチでは悔しかったんだ、悔しかったんだ」。2分46秒の演技中、浅田は念じ続けた。あんな思いはもう2度としたくない。五輪の時と同じ藤色の衣装を身にまとい、悔しさが体を動かした。

 「ノクターン」の曲が鳴り始めて24秒。勢いよく体を前方に放った。3回転半。ソチでは大きく転倒した。あの時は「自分に重圧を押しつけていた」。五輪の大舞台に心が乱れた。この日は「無心だった」。頭にあったのは「(気持ちが)後ろ向きになってはいけない。前に、前に」。壁に向かって高く、速く跳躍した。3回転半回った体は滑らかに氷に戻ってきた。

 もう崩れない。「悔しかったんだ」とスピン、ステップ1つ1つに気持ちをぶつけた。フィニッシュで右手を掲げて、「やった!」。1万7338人が入り、多くの知人も詰め掛けた会場。ソチのSPでどん底に落ちた時にも背中を押してくれた仲間。「支えてくれた人たちのためにも…」。思いは結実した。「あの悔しいという思いがあったから、できたのかも。人生何があるか分からない」と屈託ない笑みがこぼれた。

 「大満足ですね」と演技をたたえた佐藤信夫コーチは、1つの予感があった。ソチ後、休養を挟んで久々に見た滑りに「うまくなったな~」とうなった。どこか1つの技術などではなく、全体の雰囲気が格段に違った。「命をかけて(五輪で)戦ったわけですから。大きな山を越えると、上のレベルになることがある」と言えば、久美子コーチも「一皮むけましたね」とこの1カ月間を振り返った。

 いつも得点は気にしないが、今回ばかりは「演技に満足で、得点にも期待した」。自己ベストを5年ぶりに更新する78・66点。世界最高点と聞くと「自分しか跳べないジャンプ(3回転半)を入れての得点。すごくうれしい」「100点です」と満点をつけた。上回った10年バンクーバー五輪の金妍児の78・50点は、全4種目(男女、ペア、アイスダンス)で最古の世界記録だった。

 大会後の去就が注目されるが、今は目の前のことに集中する。世界選手権でのSP首位発進は、出場8度目で初めて。次は29日のフリー。ソチでは劇的な滑りで世界中を感動させた。「SP、フリーと両方、パーフェクトにやり切ったと思えるように」。あの4分間を、日本で再び。【阿部健吾】

 ◆浅田の3回転半ジャンプの得点

 単発で跳んで認定されたのは、今回のSPで22回目(回転不足、転倒は除く)。10・36点は過去最高の得点になる。基礎点は2度の改正があり、出来栄え点を見れば+1・86点は08年4大陸選手権のフリーと並んで最高点となる。

 ◆浅田のソチ五輪

 2月19日にSPの最終滑走でリンクに登場。冒頭の3回転半が回転不足で後方に両手をついた。続く3回転フリップも回転不足。さらに後半の3回転-2回転ループで、最初のジャンプが2回転となって連続ジャンプにつなげず。55・51点の16位で首位金妍児(韓国)と絶望的な19・41点差となって「(原因は)分からない」とぼうぜん。22時間後のフリーは冒頭の3回転半に成功。3回転以上のジャンプを全6種類計8度すべて着氷。自己新の142・71点で10人抜きを果たし6位に浮上。涙を流した。