<爲末大学:インターハイ編(3)>

 2020年になった時に、この世代の年齢は23、24歳前後、アスリートとしても、ちょうどいい年齢を迎える。20年東京五輪のスターはこのインターハイ選手の中にもたくさんいるだろうけれど、どの選手もオリンピックまで生き残れるわけではない。多くの選手は敗れて引退していくことだろう。

 生き残る選手と、そうではない選手の違いは何なのか。高校の部活動では教えられない「不道徳的勝負論」の観点からまとめてみた。

 「アドバイスを無視しろ」

 高いレベルになると、さまざまな人がサポートしてくれるようになり、アドバイスには困らない。問題は同じものを見ても人は違うことが原因だと言う点だ。例えばサッカーのW杯を見てみても、日本チームの敗戦は監督の問題だと言う人もいれば、強化だという人もいれば、当日の戦術だという人もいる。高校時代に素直に言うことを聞いても混乱しないのは関わっている人が少ないからで、関係者が増えるステージに入ってからは、大事ではないアドバイスを無視する能力が大切になる。

 「自分のために競技をしろ」

 かつて陸上のトップ選手で、自分のために開催された大会を直前で足に不安があるという理由でキャンセルしたことがあった。みんな当然がっかりしたけれど、彼はその後の試合で素晴らしい活躍をした。彼の理屈は極めてシンプルで「最も狙っている大会で最もいいパフォーマンスをするために必要な選択をする」。みんなに気を使いながら、頂点を目指すことはとても難しい。いい人になりたいのか、勝ちたいのか。これまではなかったような価値観の対立が今後出てくる。

 「できないことは諦めろ」

 世界の選手を見ると、とうてい太刀打ちできなさそうな選手がごろごろいる。あれが足りない、これが足りない、と弱点ばかりが目につく。全部の弱点を埋めることができればいいけれど、残念ながらそれは不可能だ。なぜなら競技人生で最も足りないものは時間というリソース(資源)で、全部の弱点を克服するような時間はない。一生懸命に反復練習をしていたらうまくなった時代と違い、これから先は何をやるか以上に「何をやらないか」を決断することが重要になる。

 そして最後にもう一言だけ、アドバイスを。

 「孤独に耐えよ」

 山頂に近づくほど理解できる人は少なくなる。(為末大)