米国伝統の自動車レースであるインディアナポリス500マイル(インディ500)を、日本人として初制覇した佐藤琢磨(40=ホンダ)が13日、都内で会見し、インディカー・シリーズ年間王者を次の目標に掲げた。世界3大レースと呼ばれるインディ500の重みと勝利をつかんだ自信、スタッフへの感謝をあらためて強調。現在年間ランク3位からの逆転を目指す。契約先のホンダからは高級スポーツカー「NSX」がプレゼントされた。

 偉業から2週間後の凱旋(がいせん)会見で、佐藤は弁舌も軽やか、笑顔で喜びを語った。インディ500では優勝者はシャンパンではなく牛乳を飲むのが習慣で「牛乳は最高の味でした」。同時に他の車がクラッシュしてレースが一時中断した際「昼寝をしました」と語り、それが最後まで集中力をつなぐ秘訣だったと明かした。

 先頭に立つと空気抵抗などで利が少なく、近年は残り1周で勝負をかけるドライバーが多いのに対し、佐藤は残り5周で仕掛けてトップに立った。これも「勝算があった」と振り返った。仮に後続に抜かれても、再逆転するシミュレーションができていたという。戦略通りの勝利が、次の目標へと後押しする。

 インディカー・シリーズ最高峰を制したからには、年間王者を目指すしかない。現在年間ランク3位。得意コースでのレースがあまり残っておらず「現実的には厳しい」と冷静に言いながらも、残り8戦で「1勝か2勝して、あとは確実にトップ5入りすればチャンピオンも夢じゃない」と青写真を描く。10月のF1日本GPには関連イベントのため来場予定で「新たな優勝報告ができるように」と誓った。

 あらためて「北米でのインディ500の知名度、格の違いを実感した」とも言った。優勝後2日間は「自分の体がメディアのための道具」と例えるほど引っ張りだこだった。翌週にデトロイトのレストランでは「デザートを頼んだら(優勝セレモニー同様)ミルクが出てきた」。米国で最も有名な日本人の仲間入りだ。

 最後には所属のホンダから贈られたスポーツカー「NSX」の前に立って記念撮影。実はインディ500の副賞として「シボレー・コルベット」ももらっている。ホンダとの契約があるだけに「乗るわけにはいかないけど(優勝した)ステータスとして、宝物、コレクションとしてとっておく」と照れ笑い。誇りがにじんでいた。【岡田美奈】

 ◆佐藤琢磨(さとう・たくま)1977年(昭52)1月28日、東京都生まれ。自転車で高校総体優勝。鈴鹿レーシングスクールを首席で卒業し、01年に英国F3選手権で総合優勝。02年にジョーダン・ホンダでF1デビューし、BARホンダ時代の04年米国GPで日本人最高タイの3位で表彰台に上った。インディカー・シリーズには10年から参戦し、13年の第3戦で同シリーズ初優勝。趣味はドライブ、サイクリング、食事。164センチ、59キロ。

<インディ500>

 ◆正式名称 「インディアナポリス500マイル」。インディカー・シリーズに組み込まれる1戦で、5月末に行われる米国初夏の風物詩で決勝は約40万人が観戦。F1モナコGP、ルマン24時間レースとともに「世界3大レース」と呼ばれ、その中でも最も歴史が古く、今回が101回目だった。

 ◆2週間がかり 今年は5月16日に開幕、練習走行を経て20、21日に予選を行い、再び練習走行を挟んで28日に決勝。期間中はコンサートなど関連イベントも多い。決勝はインディアナポリス・モータースピードウエーの楕円(だえん)形のコース(1周2・5マイル)を200周する。

 ◆総額15億円超え 今年の優勝賞金は245万8129ドル(約2億7000万円)。近年賞金総額は15億円前後とされ、優勝しなくても高額賞金が得られる。