最後は感謝だった-。リオデジャネイロ五輪柔道女子70キロ級金メダルの田知本遥(27)が10日、都内で現役引退会見を行い、78キロ超級の姉、愛(めぐみ、28=ともにALSOK)に感謝の言葉を伝えた。

 柔道人生20年を「生き甲斐」と表現し、愛とともに切磋琢磨(せっさたくま)してきた。小中高、東海大を経て社会人になるまで姉と同じ道を歩み、2人で「五輪」を目指した。リオ五輪の会場では、田知本が五輪出場がかなわなかった愛の首へ金メダルをかけてともに号泣した。

 恥ずかしがり屋の愛はこの日、コメントを寄せた。「一緒に柔道を始めて、小さい頃から理解し合える仲間であり、一番近くにいるライバルだった遥が先に引退することに、まだ実感がわきません。どん底な時もあったと思うけど、這い上がる姿、最後は自分の最大の目標を達成する姿は忘れられません。本当にお疲れさまでした」。柔道家として妹に敬意を表するメッセージだった。

 先月、愛に引退を伝えた田知本はこの日、コメントを知ったという。「ぐっとくるものがあり『ありがとうございます』と言いたい。リオ五輪で勝った瞬間を見ていて、しんどかった時期も見ていて、自分とシンクロする気持ちになった」と言葉を詰まらせた。

 リオ五輪後は休養を表明。6月の全日本実業団団体対抗大会に出場し、11月の講道館杯全日本体重別選手権での“復帰”が注目されたが、エントリー締め切り日の今月4日に進退の決断を下した。「この1年間、ゆっくり考えて、悔いのない決断だと思っている。6月の実戦復帰で『もっと試合をやりたい』という気持ちが全くわいてこなかった」と引退理由を説明した。12年ロンドン五輪は7位、15年にはドーピング違反の恐れがある風邪薬服用で全日本柔道連盟から警告処分を受けるなど波瀾(はらん)万丈の柔道人生だった。「全てをかけて1つのものを極めた日々。きついことが多かったけど、それに立ち向かっていく自分が好きでした。この20年は大切な思い出です」。

 今後も同社に所属し、今年4月に進学した筑波大大学院で学業に専念する。ロンドンとリオの両五輪で「勝ち負け」を経験し、欧州などでの柔道普及活動を経て「勝ちだけを求めるのではなく、広い視野で競技に打ち込めることを教えたい」と指導者への夢も語った。

 「準備」「覚悟」「感謝」の3つの言葉を大事にする。会見で記念撮影終了後、田知本は再びマイクを握った。柔道関係者、職場、ファンらに向けて再び、頭を下げた。「本当にありがとうございました」。最後の言葉は感謝だった。