昨年8月に右手首の腱(けん)を脱臼した元世界ランク4位の錦織圭(28=日清食品)が約5カ月ぶりに実戦復帰した。ツアー下部大会の1回戦で、同238位のノビコフ(米国)に3-6、6-3、4-6で敗れた。新たに一般女性愛好家並みの37ポンドという緩いストリングス(ラケットに張られている糸)強度で手首への負担を軽減。ストリングスも反発が高いものに替え、体にやさしい“ゆるキャラ”で復活だ。

 結果はほろ苦い敗戦だ。しかし、普通に3セットを戦えた。約5カ月間、苦しかった心身をようやくコートで解き放った。錦織の心の中には、さまざまな気持ちが湧いたに違いない。「30点ぐらいかな。悔しい。でも(手首は)ほぼ痛みがなくできた。いいサイン」。

 昨年8月9日以来、167日ぶりの実戦だった。ツアー下部大会に出場したのも10年11月以来、約7年ぶり。「1試合目なので、やっぱり難しかった。ラリーを続けるのも簡単ではなかった」。まだ、少しの違和感と自信のなさで「思い切り打てない」。球はどこか軽そうだった。

 この日、錦織のストリングスの張り強度は37ポンドだった。通常の50ポンド弱よりも約10ポンド以上低い。張りが緩いと軽い力で球を飛ばせるため、手首への負荷を軽減できる。復帰戦は、手首保護が最大のテーマだった。

 ただ、強度が緩いと球のコントロールが難しい。思い切りラケットを振れば球は飛んでくれるが、その調整が大変だ。手首の違和感と自信のなさに、強度の緩いストリングスが加わり、思い切り打てず、自分から攻められない状況をつくった。非力な一般女性が使う30ポンド台の強度にトッププロが慣れるのも大変だった。

 手首は完治しているが「100%(痛みが)なしではない。あと、何週間もすれば、痛みもゼロになってくると思う」と観測を示した。“ゆるキャラ”になったのはその道中で手首に負荷をかけないためだ。今後の強度は未定ながら、通常の50ポンド弱まで徐々に戻していくとみられる。

 テニス人生を左右する手首のけがから戻ってきた。勝利の美酒にはならなかったが、再び戦えるめどは立った。「今は(目標を)インディアンウェルズに一番合わせたい」。まずは今年最初のマスターズ大会、3月のBNPパリバ・オープンに照準を定めた。【吉松忠弘】