モータースポーツの世界最高峰F1が1月31日に今季よりグリッドガールを廃止すると発表し、日本のワイドショーなどが取り上げるなど波紋が広がっている。

 発端は昨年末に一部の性差別廃止論者からグリッドガールが女性差別に当たると指摘されたこと。2017年にF1の商業権を獲得したリバティメディア社はアメリカ企業であり、そうした人権尊重論に配慮してグリッドガールの廃止を決めた。

 「長きにわたってグリッドガールはF1の一部であったが、この慣習は我々のブランド価値にそぐわず、明らかに現在の社会的規範から外れている。F1とそのファンにとって適切で妥当なものではないと思う」(F1商業面マネージングディレクター、ショーン・ブラッチス)

 しかしこの決定が発表されるや日本のメディアでは異例の反響を呼び、ワイドショーや情報番組などでも取り上げられ性差別論をもとにさまざまな議論を呼んだ。中には日本のレースクイーンと混同した的外れな批判も多く見られた。

 日本ではスポンサーアピールのためのコスチュームを着てサーキットを彩るレースクイーンが有名だが、F1にはレースクイーンはおらず、スタート直前のスターティンググリッドでネームボードを持つグリッドガールだけが存在する。露出度の高いコスチュームではなく、あくまで上品にその開催国の伝統や魅力を表現するための衣装を身に着けている。

 F1ドライバーの中にも「グリッドガールはクールな存在、彼女たちには残ってほしい」(ダニエル・リカルド)、「グリッドガールはいなきゃダメだ」(マックス・フェルスタッペン)、「F1から美しいものをなくしてしまうのは残念なことだ」(ニコ・ヒュルケンベルグ)などと反対意見が出ており、過去に二度だけ男性が同様のポジションを務めるグリッドボーイが実験的に導入されたことがあるが「僕は好きじゃない、僕のグリッドに立つのは女性であってほしい」(セバスチャン・フェッテル)などと否定的な意見が大方だった。

 2017年の日本GPでグリッドガールを務めた佐崎愛里さんは、ツイッターで次のように述べている。

 「F1のグリッドガールを昨年やらせて頂いたけど、“その国代表としての誇りを持って歩きなさい”と礼儀や振る舞いを大事にしたすてきなお仕事だったよ。F1のグリッドガールを指揮するポジションにも大会本部の周りにビシッと指導する女性が活躍されていたけれど、活躍できる場は男も女も関係なくそれぞれに合った場所があると思う。女性蔑視と過剰に反応する方が男女を差別した目で見てるんじゃないかと思ってしまう…」(原文ママ)

 どのグランプリでも各国主催者が地元のモデル事務所などを通じてグリッドガール志望者を募り起用する。アブダビGPのタイトルスポンサーを務めるエティハド航空は、社内で公募してオーディションを行いグリッドガールを選出しているほどだ。全グランプリを取材している筆者の目から見ても、どのグリッドガールもその場に立つことに誇りを持ち楽しんでいるように映る。2015年中国GP表彰式で勝者ルイス・ハミルトンがそばにいたグリッドガールにシャンパンをかけた行為が性的差別だと批判を受けたこともあるが、普段は上海の不動産会社に勤務するというそのグリッドガール本人が「私はそれほど気にしていません」と語っている。

 イギリスの女性スポーツ保護団体Women’s Sport Trustは「明白な決断を下してくれたことに感謝している」と表明しているが、自ら望んでグリッドガールを務める女性たちの仕事を奪うかたちになった今回の決定について賛否両論多くのコメントが寄せられている。日本のスーパーフォーミュラやスーパーGTなどにおけるレースクイーンの位置づけについても議論が巻き起こっており、まだまだこの騒動は尾を引きそうだ。(米家峰起通信員)