世界選手権2連覇の阿部一二三(21=日体大)が、決勝で丸山城志郎(25=ミキハウス)に敗れた。激しい技の攻防が続いた13分23秒、丸山が捨て身でしかけた「浮き技」で技ありを奪われた。

雄たけびをあげるライバルの横で、目の前に広がる国際センターの天井をみつめた。「警戒はしていたけれど、投げられてしまった」。悔しさを押し殺すように淡々と言った。

1回戦、準決勝と一本勝ちして丸山と激突した。1回戦で痛めた左脇腹にテーピンをしていたが、序盤から積極的に攻めて相手に指導2がいった。10分には内股で相手を投げ、一度は技ありが宣告されたが取り消し。「なかったらなかったで、仕方ない」。試合を振り返りながら言った。

昨年の世界選手権2連覇で、妹詩(うた、18)との兄妹優勝も果たした。東京オリンピック(五輪)の金メダル候補として期待も高まったが、そこから勝てなくなった。昨年11月に行われたグランドスラム(GS)大阪大会決勝では丸山にこの日と同じような捨て身技で敗れた。さらに、今年2月のGSパリ大会では初戦でまさかの一本負けを喫した。

圧倒的な強さに陰りにみえているのは確か。国内外で注目され、対戦相手から徹底的に研究されているからだ。思うような組み手にならず、技を出す間合いがとれない。そして、勝てなくなる。全日本柔道連盟の金野潤強化委員長は「今の阿部は研究され、丸裸になっている。ここで頑張らないと」と話した。

92年バルセロナ五輪金メダリストで切れ味鋭い豪快な背負い投げで「平成の三四郎」と呼ばれた古賀稔彦氏は「強い選手なら誰でも経験すること。ここを越えれば、さらに1ステージ上の柔道ができる。真の強さを手にするチャンスでもある」と話す。

大会後の強化委員会で66キロ級で丸山に続く2番手として世界選手権代表に選ばれた。「今が踏ん張りどきだと思う。ここを乗り越えて五輪の金メダルを目指したい」と阿部。「令和の三四郎」への道は、この壁を乗り越えることから始まる。