30日まで続くフィギュアスケート連載「令和に羽ばたくスケーター」では、平成最後となった今季の雪辱を誓う選手たちを取り上げます。第2回は男子の友野一希(20=同大)。18年世界選手権5位の男が、シニア2年目の今季見ていた景色に迫りました。

2019年3月23日夜、友野は愛知にいた。フィギュアスケートのナショナルトレーニングセンターに設定されている中京大の宿舎。2人部屋の相方となっていたペアの市橋翔哉(21=関大)とテレビをつけた。

同じ時間、さいたまスーパーアリーナでは世界選手権男子フリーが行われていた。画面上には次々と、ライバルたちの姿が映った。

「これ、いっちゃう?」

「どうだろう」

「俺はやると思うな」

「同意」

そんなやりとりをして、食い入るように見つめた羽生結弦(ANA)の演技。ジャンプの度にさけび、四方八方から投げ込まれる「くまのプーさん」を見ながら友野は心の中で思った。

「あの演技、スケートをやっていない人でも『すごい』って思うと思います。スケートをしていて、同じように国際大会に出ている目線で見ても、どういうメンタルをしているのか、理解できない領域だった。『あの状況で力を出し切れるから、五輪2連覇できるんだ』って思っていました」

その直後、今度は米国の19歳ネーサン・チェンが羽生の得点を上回った。チェンの4分間を見つめる2人は、なぜか無言だった。

「あぁ…。すげぇ…」

圧倒的な演技を見終えると、ふっと力が抜けた。

「すごい戦いを見ながら、正直なところ『まだ、出なくて良かったな』って思いました。本当に別次元だった。羽生選手もネーサン選手も、試合で出し切る力がすごい。口では言うのは簡単だけれど、一番大切なのは、本番なんですよね」

1年前の18年3月、イタリア・ミラノ。羽生の欠場により、友野は世界選手権のリンクにいた。そこで見せた演技に世界が驚いた。

ショートプログラム(SP)は11位発進となったが、フリー3位の高得点で総合5位。友野と2位宇野昌磨(トヨタ自動車)の活躍で、日本男子は19年世界選手権の3枠をつかんだ。

フィギュアスケート世界選手権 最終日 男子フリー 男子フリーの演技をする友野一希(2018年3月24日撮影)
フィギュアスケート世界選手権 最終日 男子フリー 男子フリーの演技をする友野一希(2018年3月24日撮影)

そのオフは周囲の環境がガラリと変わった。羽生、宇野の平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)金、銀メダルコンビに続く期待の存在となり、メディアへの露出も増えた。以前との注目度の変化を「自分でも感じるほどだった」と明かした。

迎えた今季。手応えは十分にあった。18年11月のグランプリ(GP)シリーズ第5戦ロシア杯では3位。2年連続の世界選手権切符が懸かった12月の全日本選手権へ、心身のピークもきちんと合わせていた。

「今季の練習は一番良かった。すごく自信につながる練習ができていました」

表彰式で松葉づえを手に笑顔を見せる羽生(中央)。左は2位のクビテラシビリ、右は3位の友野(2018年11月18日撮影)
表彰式で松葉づえを手に笑顔を見せる羽生(中央)。左は2位のクビテラシビリ、右は3位の友野(2018年11月18日撮影)

だが、厚い「壁」は予告無しに現れた。全日本選手権SP冒頭の4回転サルコーで転倒。それも前向きに体を氷へと打ち付ける、珍しい形のミスだった。

「1年前の全日本は『五輪に行く』と言っていたけれど、正直実力不足と分かっていたし、挑戦する立場。でも、今季は可能性があった。僕はそういうの(重圧、期待、責任)を抱えて、やったことがなかったんです。試合でしたことがないミスをして、トラウマじゃないけれど、その失敗をシーズン後半まで引きずってしまいました」

シニア1年目の昨季にグランプリ(GP)シリーズデビュー。その時も村上大介の欠場により、出番が回ってきたNHK杯だった。

「シニア1年目の世界選手権も、NHK杯も、全て代打出場だった。正直、本当に覚えていないぐらい『勢い』でやっていた。でも、2年目に全く違う難しさがあった。日本の代表として(期待を受けて)試合に出る難しさを、分かっていたつもりだったけれど、対応しきれなかったんです」

4回転サルコーの失敗が響いた全日本選手権は4位。前年度、自らがたぐり寄せた世界選手権の3枠に、入ることができなかった。

「実力的にまだまだと思ったけれど、やっぱり気持ちは悔しいんです。世界選手権をテレビで見ながら、たくさん刺激を受けて『ビビビッ』ってきた。世界中のどのスケーターも、あれを見たら、むちゃくちゃ練習を頑張ると思う。僕も燃えました。本当に悔しかったので、100%、120%、200%やり返す気持ちで、もがき続けたい」

技術面ではスピンやフリーレッグなど、細かな技術の精度向上を掲げる。さらに、4回転ループの練習にも取り組んでいるという。

「僕はエッジ(で踏み切る)系の方が跳び上がりがいいので、『跳べそう』っていう感覚があります。まだ、お遊びの延長線上なところもあるけれど、本気で降りる気持ちでやっている。少しでも自分の武器になる可能性があるのであれば、試す価値はあると思う」

何より平成最後のシーズン、技術以上に学んだことがある。令和元年の来季に向け、友野は「闘志!!」と色紙に書き込んだ。羽生やチェンにあって、自分からは少し欠けていたように感じたのが「闘志」だった。

「本番で自信をもって演技をできるように、しっかりと闘志を持って『勝つぞ』という気持ちで練習したい。『勝ちたい』という気持ちが、まだまだ足りないんだと思う。今度は勢いじゃなく『本当の実力』を示したい。(22年北京)五輪へ行って結果を残すために、頑張ります」

友野の優しい目に、グッと力が入った。【松本航】

プレゼント

友野一希(20=同大)の自筆サインをニッカン・コム読者1名にプレゼントします。

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◆30日の最終回は女子の本田真凜(17=JAL)です。

令和元年の誓いとして「闘志!!」としたためた色紙を持ち、ポーズを決める友野一希(撮影・松本航)
令和元年の誓いとして「闘志!!」としたためた色紙を持ち、ポーズを決める友野一希(撮影・松本航)