羽生結弦(25=ANA)が日本人に5年ぶりに負けた。ショートプログラム(SP)首位も、大得意のトリプルアクセル(3回転半)で転倒するなどフリーで172・05点止まり。計282・77点の2位で4年ぶり出場で5度目の優勝を逃した。国際スケート連盟(ISU)非公認ながら世界最高得点を超えたSPのリードを守れず、宇野昌磨(22=トヨタ自動車)との直接対決にも初めて敗れた。来年2月の4大陸選手権(ソウル)と同3月の世界選手権(カナダ・モントリオール)代表には選ばれた。

令和元年の終わりに衝撃の結末が待っていた。羽生が負けた。国内で負けた。日本人に負けた。前戦のルッツより難易度を下げた冒頭の4回転ループで乱れると、中盤のルッツも回転が抜ける。4回転トーループこそ踏みとどまったが、最も得意とする3回転半で転倒した。基礎点1・1倍になる後半のジャンプ3本すべてが回転不足。まさか。終演と同時に「うわぁ」と天を仰ぐと「弱い、弱っちいです」。普段は言葉によどみがない取材エリアでも10秒以上の沈黙があったほどで「このザマでは…自分でも(氷上で)ビックリしてしまった」と戸惑った。

14年11月NHK杯で村上大介に優勝を許して以来の“事件”。2位が確定した瞬間は「昌磨おめでとう」と祝福したものの、すぐうなだれ、表彰式も笑顔がひきつった。直接対決8戦全勝だった3歳下の宇野にも「初めて負けた」と自覚。重圧からか「ホッとした」とまで声にしてしまった。

オリンピック(五輪)2連覇の自身を筆頭に平昌(ピョンチャン)銀の宇野、バンクーバー銅の高橋と五輪メダリスト3人がそろった最後の全日本。SPでは自身の世界最高記録を上回る110・72点を出したが、フリーで暗転。5週3戦の過密日程で「調整すらできない」ほど疲弊していた。食欲は落ち、大学の課題にも追われて満足に跳べなかった。今大会もジャンプのレベルを下げて出来栄え点を稼ぐ構成を試し、氷を切るブレード音と曲の調和にまでこだわるなど挑戦はしたが「体と心がイメージと乖離(かいり)していた。日に日に体が劣化していく感覚」と首をひねる日々。「本当に体力がないし、まだ力を抜いて跳べていない」と王者らしくなかった。

それでも、敗北直後は「グチャグチャ」と乱れていた言葉が整ってきた。コーチ不在の危機から復活した宇野への賛辞も笑顔も自然に戻り「追いかけて脅かしてやろうかな」。いったん控室へ戻った後の会見では「こんなもんじゃねえぞ」と火がついた。「ループもトーループも跳べないようじゃ話にならない。悪い点を話せば30分かかる」と沈んでいた気持ちも上向き、世界で誰も跳んでいない最高難度クワッドアクセル(4回転半)への挑戦を、来年2月の4大陸選手権に前倒しすることも明言した。

「(今月上旬のグランプリファイナルで敗れた)ネーサンと当たるかもしれないし、いま負けた昌磨という壁もある。圧倒的な武器が必要なので、そこで(4回転半を)試したい」。突き上げる年下ライバルとのデュエル(決闘)を通して羽生はまだ強くなる。【木下淳】