ここまで3戦全勝同士の対決は、昨季大学王者の早大が勝利を収めた。

立役者は、苦労人のフランカー坪郷智輝(4年=川越東)だった。高校までラグビー未経験だった男が、対抗戦初出場。それを先発で飾ると、フォワード戦で体を張ったプレーを連発した。前節、青学大に122-0で爆勝したオフェンスを食い止め続けた。

24-33と1桁差に迫られて迎えた後半25分には初トライも記録した。モールで押し込むと、最後は坪郷がインゴールに体を預ける。16点差。大勢が決し、試合後にはマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。チケット完売の6421人が詰めかけた場内から拍手を浴び、努力を知る早大フィフティーンも大喜びだった。

報道陣のオンライン取材にも、対応する代表者3人の1人として、相良南海夫監督(51)NO8丸尾崇真主将(4年=早実)とともに参加した。

まず「前に出て接点で勝つ、というのが今日のテーマでした。自分の強み。そこで負けたら絶対に勝てないと思っていたので、相手はすごく強かったんですけど、こちらも前に出て接点で勝ち切れた。それが今日の勝ちにつながったのかなと思います」と充実した表情で語った。

続けて、初ずくめの試合で試合MVPになったことを聞かれると、照れくさそうに笑った。「率直にうれしいです。前日と、今日とすごく緊張していたんでけど、みんなが『大丈夫』と励ましてくれて。リラックスして試合に臨めたのが、いい結果につながったのかなと思います」と初体感の対抗戦を振り返った。

大学選手権で準優勝した2013年度に同じ早大でスタメンCTBとして活躍した兄の坪郷勇輝に憧れ、大学からラグビーを始めた異色の存在。昨夏はCチーム、昨年の同時期はBチームにいた。タックルと、その後のブレークダウン(接点=密集でのボールの奪い合い)の激しさが生命線。難敵の帝京大を相手に、闘える男としてアカクロのジャージーをつかみ、相良監督から「強い相手に対し、坪郷には『細かいことは抜きにして、とにかく体を張ってタックルしてくれ』と期待して起用しました。初出場に動じず、4年の意地で、しっかり体を張ってくれた。本当にいい働きをしてくれた」と評価された。

同学年のキャプテン丸尾からも「優しい男です。それでいて、プレーになると狂気じみてくれるのが坪郷の良いところ」と紹介されつつ「秩父宮も初めてだったと思うんですけど、心配はなく、むしろ、やってくれるだろうな、という思いでした」と信頼感を示された。

取材も初? で慣れなかったのか、質問に対して「自分の持ち味はしっかり出せたのかなと思います」と一言しか返さず、丸尾から「もっと言えよ」と笑顔で突っ込まれる場面も。171センチ、87キロと決して大きくはないが、ひるむことないタックルと強度を武器に、今季を占う大一番の主役になった。【木下淳】