12年ロンドン、16年リオデジャネイロオリンピック(五輪)柔道男子66キロ級銅メダルで、現在は73キロ級の海老沼匡(30=パーク24)が26日、体重無差別で争う全日本選手権(東京・講道館)に初挑戦する。

数々の実績を誇る30歳の柔道家は、憧れの夢舞台に静かに闘志を燃やす。「66キロ級の時に何度か出場チャンスがあって、人生で一度は出たいと思っていた。体重差関係なく、日本で一番強い選手を争う名誉ある大会に出場できて、本当に幸せ。この歳にして1つの夢がかなう」。

今大会はコロナ禍の影響で8カ月遅れの無観客開催となる。東京五輪代表・補欠や19年グランドスラム(GS)大阪大会覇者らにも推薦枠が与えられ、GS大阪大会を制した海老沼は迷いなく出場を決意した。

名門私塾「講道学舎」出身。中学生の頃から、同門の先輩で03年世界選手権100キロ超級覇者の棟田康幸らの熱戦を見てきた。講道学舎は五輪王者4人、世界王者6人を輩出したが、意外にも全日本王者はいない。「(92年バルセロナ五輪78キロ級金メダルの)吉田秀彦先生、(同五輪71キロ級金メダルの)古賀稔彦先生も決勝で負けている。講道学舎に入った時から、五輪・世界王者と同じく『全日本王者を出す』と言われてきた。偉大な先輩たちと同じ舞台に立ち、講道学舎で育った柔道家としての意地も見せたい」。

重量級対策として、所属だけでなく、母校の明大や国士舘大などで出稽古した。100キロ以上の感覚に慣れつつも、腕の重さや圧力に驚愕(きょうがく)し、組むだけで疲れが出て体力を消耗すると実感。自身の強みを生かした柔道スタイルで、組み手で制し「スピードと威力で投げること」を心掛ける。体重も意識して増やすのではなく、普段の減量前と同じぐらいの78キロ前後で臨む。

14年大会でリオ五輪73キロ級金メダルの大野将平(28=旭化成)が初参戦し、1勝して日本武道館にどよめきを起こした。講道学舎の2学年下の後輩に刺激を受け、「軽量級は1勝するのも難しい。大野選手を超える2勝を目標にして、1つでも多く勝ち上がりたい。コロナ禍で苦しい日々が続いているが、少しでも柔道界から明るい話題を届けたい」と切望した。

減量苦のため73キロ級に階級を上げてから3年以上が経過し、柔道との向き合い方も変化した。「今は柔道が本当に楽しい。負けて悔しい思いもしているが、その負けから得ることも多く、視野も広がっている。柔道の奥深さも感じ、より深く柔道に取り組めている。全日本選手権ではそんな成熟した柔道を見せたい」。30歳の柔道家の新たな挑戦が間もなく始まる。【峯岸佑樹】