【モンペリエ(フランス)=松本航】北京五輪女子個人、団体銅メダルの坂本花織(21=シスメックス)が、地元フランスの観衆をとりこにした。世界7人目の80点台となる自己最高80・32点で首位発進。2位のヘンドリックス(ベルギー)に5・32点差をつけ、25日のフリーで初優勝を目指す。樋口新葉(明大)は7位、河辺愛菜(木下アカデミー)は12位。ペアSPは三浦璃来、木原龍一組(木下グループ)が3位につけた。

【フィギュア】坂本花織首位発進、樋口新葉7位、河辺愛菜12位/世界選手権女子SP詳細

坂本にとって1年ぶりの欧州での競技会は、何かが違った。6分間練習前のアナウンス、演技中、そして初めて80点台に乗せた瞬間。「フゥ~!」という海外独特の叫びと拍手が入り交じり、得点発表の「キス・アンド・クライ」を近くで見ようとファンが観客席の端へと駆け寄っていた。「欧州はだいたい『バァ~』ってならない(盛り上がらない)けれど、こんなん初めてです」。世界での評価を実感した瞬間だった。

五輪銅メダルの意地を見せた。冒頭のダブルアクセル(2回転半)は出来栄えでジャッジ9人中8人が満点「5」をつけ、スケート技術などが評価される演技構成点でも全5項目で10点満点の9点台を並べた。取材エリアでは「グラディエーター」を振り付けた地元フランスのリショー氏に「おめでとう!」と伝えられた。辛口の師が喜ぶ完成度で「最後の最後まで気持ちが上がった状態でできた」とファンにも感謝した。

現地への移動便は給油を挟み、ドイツ経由で着いたマルセイユから2時間のバス移動。ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、厳しい渡航となったが、うれしい出来事もあった。マルセイユ空港では「カオリ~」の声。見知らぬ外国人と写真を撮った。「スケートに関係のない外国人に2回も! ここ(モンペリエ)に来るだけで調子乗りそうやった。新鮮でむちゃくちゃうれしかった」。2つの五輪銅メダルだけでなく、人柄が見る者を引き寄せる。

25日のフリーへは「自己ベスト(153・29点)だけを考えてやりたい」と冷静に振る舞った。坂本らしく世界女王に手を伸ばす。