23年ラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会開幕まで、9月8日でちょうど1年になった。

前回の19年W杯日本大会では、日本代表が過去最高の8強入り。世界中の注目を受けながら、歴史的な偉業を成し遂げた。

飛躍の一因に挙げられたのが、世界最高峰リーグのスーパーラグビーに参戦した日本チーム「サンウルブズ」の存在だった。

現在は解散となったチームを、最初に率いたのがニュージーランド人のマーク・ハメット氏(50)。日本代表ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC、52)への橋渡し役も担ったハメット氏が、このほど日刊スポーツのインタビューに応じ、日本代表へエールを送った。【取材・構成=松本航】

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「ハマーさん」と親しまれるハメット氏は今、母国ニュージーランド(NZ)のクライストチャーチにいる。市内中心部からバスで約20分の場所にある高校「セントトーマス・カレッジ」。かつてNZ代表「オールブラックス」でW杯2大会に出場した英雄は次世代の育成に力を注いでいる。

ハメット氏「16年シーズンを日本のサンウルブズで過ごしました。そこからNZに帰ってハイランダーズのアシスタントコーチのキャリアを終えた時、もう1度、日本でコーチングをするプランもありました。それがコロナの影響でかなわず、セントトーマスの校長に声をかけてもらった。プロも高校生もアプローチは変わりません。『名前は?』『どこ出身?』から始まり、信頼関係を築いていく。一生懸命さや、コーチと選手が同じ絵を描くことが大切なのも変わりません」

今回のオンラインインタビューは、通訳を大畑勇太さん(21)が担ってくれた。小学校卒業前にNZへ渡り、クライストチャーチでラグビーを学び、語学を上達させていった。NZに帰っても、ハメット氏の周りには日本人がいる。大畑さんのような情熱を持ち、異国へ飛び込んでくる人材を温かく迎えているそうだ。

ハメット氏「私たちの学校にはラグビーの留学プログラムがありますが、とてもユニークです。私を含めて(スーパーラグビーの強豪で地元の)クルセーダーズでキャリアを積んだコーチが教え、メンタル、ゲーム解析、栄養学、トレーニング…と、チームにはそれぞれの専門スタッフがいます。未来のラグビー選手はもちろんですが、トレーニングに興味がある人、通訳やゲーム解析、コーチングを志す高校生が学ぶ場があります。ラグビーはもちろん、NZの文化を知ってほしい気持ちも強いですね」

そんなハメット氏は今も日本を愛している。忘れられない光景があるという。

ハメット氏「秩父宮でハグアレス(ジャガーズ=アルゼンチン)に勝った。あの時のことは、よく覚えています」

2016年4月23日。日本ラグビーの歴史的な瞬間が訪れた。このシーズンに結成されたサンウルブズが8試合目でスーパーラグビー初勝利。フッカー堀江翔太主将(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、プロップ具智元(現コベルコ神戸スティーラーズ)、SO田村優(現横浜キヤノンイーグルス)らは喜びを分かち合い、その3年半後には日本代表の主力として自国開催のW杯でフル回転した。

ハメット氏「日本のサンウルブズでコーチングできたことは、ものすごくうれしい経験でした。サンウルブズがあったからこそ日本との関わりも増えた。サンウルブズは日本代表につながるチームとして、組み立てることを意識しました。スーパーラグビーで通用できるチームを作ることを意識しつつ、自分たちを信じ、日本のラグビースタイルを信じていました。いろいろな選手が世界トップレベルを経験できたのは、非常に大きかったと思います」

16年シーズンは1勝1分け13敗。結成されたばかりのチームは最下位の18位と苦しんだが、選手は過酷な遠征を経験し、世界トップクラスの相手にもまれて心身のタフさを身に付けた。

次回のW杯フランス大会まで、残す期間は1年-。

プロップ稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、FB山中亮平(コベルコ神戸スティーラーズ)らを含め、ハメット氏が率いたスーパーラグビー参戦1年目のサンウルブズメンバーは、切磋琢磨(せっさたくま)を続けている。

同氏が送ったエールは、シンプルなものだった。

ハメット氏「ジェイミーや、トニー(・ブラウン・コーチ)たち代表スタッフは素晴らしいコーチです。自分たちのコーチが掲げるプランを信じる。そして突き進んでほしい。応援しています」

コロナ禍で1度は断念したが「いずれ日本でコーチングをしたい思いはある」とも口にした。日本を愛する50歳は、教え子たちのW杯での飛躍を願っている。

◆マーク・ハメット 1972年7月13日、NZ・クライストチャーチ生まれ。ポジションはフッカー。NZ代表として99、03年のW杯に出場し、29キャップ。クルセーダーズ、カンタベリー州代表としても活躍。現役引退後はクルセーダーズのアシスタントコーチとしてスーパーラグビー3度優勝。ハリケーンズのHCなどを経て、16年にサンウルブズHC就任。ジョセフHC来日前の16年6月には、スコットランド2連戦などを日本代表HC代行として指揮。サンウルブズには1シーズン在籍し、17年にハイランダーズのアシスタントコーチに就任した。