常翔学園が関大北陽を破り、8大会連続41度目の花園出場を決めた。

「焦ったらあかんで。よっしゃ行こう!」-。グレーのカッパを着た常翔学園の平池三記監督(53)は高い声で、選手にハッパをかけた。選手は雨のフィールドを60分間、駆け抜いた。

前半4分、右15メートルラインアウトからモールを形成、圧力をかけた後に左へ回し、SO為房幸之介(2年)が先制トライ。同16分には同じくラインアウト・モールからSH田中景翔主将(3年)がサイドを突いてインゴールに飛び込んだ。同28分にはフランカー井本章介(1年)がトライ。前半で21-0とし逃げ切った。

8月に部員が盗撮の不祥事を起こし、同校を日本一に2度導いた名将の野上友一監督(64)が引責辞任した。01年から副部長だった平池新監督が就任した。他のスポーツ経験もなく、技術指導はスタッフ、OBらに任せ。なすべきことはメンタル面の指導が中心で、後任が決まり次第にバトンを渡す“緊急登板”だが、心はどっぷり“ラガーウーマン”だ。

「荒川先生、野上先生が築き上げてきた伝統を崩さず、受け継がなあきません」。前々日の夜は試合前に選手に何を話すべきか悩み、長く書き留めてきた野上前監督の言葉のメモを見返した。強烈な重圧で一睡もできなかった。前日のミーティングでは選手たちに「私はしゃべらん方がええな。余計なこと言わんとくわ」と諦めたように話しかけ、笑われ、場が和んだ。

だが、だからこそ、チームは力を出すかもしれない。コーチ、OBはもちろん、SH田中景翔主将(3年)は「平池先生は明るくて。ラグビーがわからないのは当たり前でしょ? 僕は“自分がチームを引っ張らんとあかん”と決めています」。平池新監督を支える思いで、全体が強固にまとまりつつある。

平池新監督がイメージする常翔学園ラグビー。「明るく、素直をモットーに。正々堂々です」-。昨年大会で史上3校目の花園通算100勝を挙げた名門が、異例の女性指揮官の下でまず101勝目を目指す。