【サンクトペテルブルク(ロシア)29日=吉松忠弘】レスリングに五輪存続の道が残った!

 国際オリンピック委員会(IOC)は当地で開いた理事会で、20年夏季大会で実施する残り1競技を審議。8競技から、レスリング、野球・ソフトボール、スカッシュを最終候補に残した。2月のIOC理事会で20年大会の中核競技から外れたレスリングだが、組織改革やルール変更などで生き残りをアピール、世界的な署名活動などでIOC理事の心を動かした。採用競技は、9月のIOC理事会(ブエノスアイレス)で決まる。

 開始予定時間を1時間早め、午後7時30分(日本時間30日午前0時30分)から行われた記者会見、IOCロゲ会長の口から最終候補として真っ先に「レスリング」が出ると、国際レスリング連盟(FILA)のラロビッチ会長ら関係者から歓声が起きた。理事会では14人の理事による1回目の投票で8票を獲得。最終候補に残った。五輪3連覇中の吉田沙保里は日本協会の福田会長と抱き合った。

 手ごたえはあった。理事会の直前、30分間のプレゼンテーションを終えたFILAのラロビッチ会長は、ガッツポーズを見せた。残留を訴えた04年アテネ大会女子63キロ級銅メダルのルグラン氏(フランス)は笑顔だった。吉田は「涙が出そうになった。みんなで、やるだけやった」と関係者を出迎えた。レスリング界の熱い思いは伝わった。

 1度は中核競技から外して除外候補となったレスリング。しかし、2月の決定をしたIOC理事会には、非難が殺到した。関係者によると「理事以外のIOC委員からも相当、文句が出ていたようだ」。第2回パリ大会を除いて第1回から続く伝統競技。あるIOC委員は「理事の考えは信じられない」と話していたように、IOC内部からも批判の声が上がっていた。

 FILAも、中核競技外しという「最終通告」を突きつけられて動いた。直後の理事会で会長を交代し、女子委員会、倫理委員会の設置を決定。より分かりやすくテレビ視聴率も考えたルール改正にも着手した。IOCが問題にした「男女の不均等」も、階級を同数にする方向で動きだした。選手や関係者は署名活動などで動いた。日本では金メダリストらの呼びかけに100万人近くが集まった。世界の動きは、大きな波となってIOCに届いた。

 最後の決戦は、9月4日から始まるIOC総会(ブエノスアイレス)だ。わずか14人の理事で決まった中核候補外しと違い、今度は100人のIOC委員の投票。「総会になれば、レスリングは生き残れる」と話す委員もいる。3大会ぶりの五輪復帰を目指して組織を統合した野球・ソフトボール、テレビを意識しながら三度目の正直を狙うスカッシュとライバルは手ごわいが、レスリング有利は動かない。残り3カ月、半数以上のIOC委員から支持を得て五輪に生き残るために、戦いは終わらない。

 ◆レスリングと夏季五輪

 1896年の第1回アテネ大会で男子グレコローマン無差別級が実施された。続く1900年パリ大会は見送られたが、1904年セントルイス大会で男子フリー7階級が行われ、以降は継続して行われている。日本のメダル数は金28、銀17、銅17の62個。競技人口は世界で約100万人、国内で約9000人。