半袖シャツに汗をにじませていたスタンドにも、コート姿が目立つ。9月20日の開幕から長い長い1カ月半、全国12会場48試合の祭りは終わった。太鼓の音、火柱、歌舞伎の掛け声…。最初は戸惑った演出も心地よさが増した。南アフリカの選手たちが、ウェブ・エリス・カップを手に家族とともにスタンドに一礼。感動的なフィナーレに胸が熱くなった。

夢のような大会だった。日本代表の活躍で、多くの人がラグビーを知った。トライやゴールを決めた選手だけでなく、地味なFW陣も注目された。外国人選手やファンとの交流が、各地で行われた。外国人も日本人も、大人も子どもも、男性も女性も、多くがラグビーに酔い、楽しんだ。「みんなの」W杯だった。

初めて伝統国以外で行われた今大会は、世界のラグビー界にとっても挑戦だった。「大会は盛り上がるのか」「スタンドは埋まるのか」…。伝統国の不安は杞憂(きゆう)に終わった。スムーズな運営、各地の歓迎ぶり、これまでの大会にはなかったスタンドの盛り上がり。世界から絶賛された。

「ティア2」の日本が大会を成功させたことに意味がある。伝統国中心に回ってきた世界のラグビー界が変わるきっかけになるかもしれない。「ティア2」でも「ティア1」を連破できた。非伝統国でも素晴らしいW杯ができる。ラグビーが伝統国のものでなく「みんなの」ものになる。

日本国内も同じだ。「にわかファン」が増えたと言われるが、この言葉もラグビー界独特。野球やサッカーではあまり使われない。ファンになる人は、誰でも最初は「にわか」だ。「コアなファン」が「ルールも知らないくせに」と違いを際立たせたがった。ファンにも「ティア1」と「ティア2」があるかのように。

重要なのは「にわかファン」が今後「ファン」になるかどうか。「にわか」を取るのは、ファン側ではなくラグビー側だ。「W杯成功」で終わりではなく、さらに魅力を発信し「にわかファン」を離さないこと。これからはW杯の力は借りられない。日本協会やトップリーグの仕事になる。

ラグビーでは「one for all、all for one」(1人はみんなのため、みんなは1人のため)という言葉が使われる。ところがラグビー界の「みんな」は内向きになりがちだ。伝統なんかなくたっていい、ルールなんて知らなくてもいい。ラグビーが「みんなのもの」になるきっかけが今大会であってほしい。【荻島弘一】